279.あいつらの行方
待っていたのは第一騎士団長のグラカス、第三騎士団長のメリラ、第三騎士団副団長であり隻眼の騎士団員ロクウィン、魔術師部隊隊長アーロス、彼の副官であり副隊長のセフリス。
この五人にルギーレたちを連れてきた第二騎士団団長のエリフィルを加えて六人が同行するのだとか。
「よし、早速だが話を始めようぜ。俺たちが掴んでいる情報によると、先日北の方にある山で怪しい奴らが目撃されたらしい」
「怪しい奴らって?」
「お前らが追っているって話の、カラフルなコートの集団だってさ。そいつらが山の中にこもって何かしようとしてるみたいだ」
それを聞き、思わずルギーレが「また山の中か……」とぼやく。
山の中であの殺人やぐらと戦ったラーフィティアの記憶が蘇るルギーレたちだが、今回もまたやぐらでも建てているのだろうか?
それを率直に聞いたのはティレフだった。
「やぐらとか建てているのか?」
「いや、そんな動きは今のところないらしい。ラーフィティアのこととはまた別の作戦でも立ててるんじゃねえの?」
シュア王国騎士団の偵察によると、何か大勢で道具を運び込んだり組み立てをしている動きはないと見られているが、裏で操っているのがあのニルスのことなので何を企んでいるのかさっぱり掴めないのが怖いところだ。
だが、ルギーレにはそれとは別に気になることがあった。
「それはそうと、あの黒ずくめの傭兵たちはどうしたんですか?」
「えっ、黒ずくめの……ああ、あの方たちなら現在別行動を取っていますよ」
それも、騎士団の尾行がついているとの話だった。
実は昨日の夜、グラカスやエリフィルたちがルギーレたちへの尋問で知った各国への連絡を自分たちからして、そこでバーレンのシェリスといろいろと話した結果、ウィタカーたちの正体がわかったのだという。
「こちらが下手に怪しむ素振りを見せれば、向こうにも不信感を与えてしまうからね。だから表面上はまだ味方のフリをしているってこと」
「え……それじゃあの三人は今どこに行っちゃったんですか?」
メリラが誇らしげに言うのを見たルディアが、どうしても気になるので教えてくださいと身を乗り出す。
するとメリラは思わぬことを言い出した。
「あの三人ならエスヴェテレスに向かっているって連絡が入っているわ」
「エスヴェテレス……?」
「妙だな。このシュアの中で何かをしようとしているわけじゃないのか?」
今までの流れだったら確実にシュアの中で暗躍をしてもおかしくないのに、なぜ今になって最初にルギーレやルディアが死闘を繰り広げたエスヴェテレスに向かうのだろうか?
その理由に最初に思い当たったのはグラルバルトだった。
『まさかその連中、エルヴェダーに会いに行ったんじゃ……』
「エルヴェダーって確か、あの貿易商をやっているって赤いドラゴンさんですか?」
ルディアの問いかけにグラルバルトは頷いた。
『そうだ。あの男は今エスヴェテレスの方にいるはずだから、きっとその三人はエルヴェダーとコンタクトを取るつもりなのかもしれない』
「で、でもコンタクトを取れたからってまさか仲間になるとかそんなことは……」
『いいや、わからんぞ。人懐っこい性格なのはエルヴェダーの強みではあるが、それゆえに上手く言いくるめられて騙されたり、あの連中にいいように使われる可能性だってある』
グラルバルトはそう言いながら、懐から魔晶石を取り出してエルヴェダーに通信を入れてみる。
だが、その通話にエルヴェダーが応答することはなかった。
『ダメだ、出ないな』
「まあとにかく落ち着きましょうよ。きっと今はほら、貿易の仕事で忙しいだけかもしれませんし」
『……そうだな。私らしくもない』
自他ともに認める冷静な性格であるはずの自分が、いったい何を慌てているのか。
グラルバルトはルディアの一言でその冷静さを取り戻し、改めてその連中の尾行について上手くやってくれるように王国騎士団の人間たちに頼み込んだ。
『それでは引き続き、その黒ずくめの集団の尾行は任せるよ』
「ああ。それじゃ本来の話に戻るが……そのコートの集団は現在も山の中に潜伏中との情報だ。偵察に出かけた連中が把握している限りでは、その人数はおよそ百名。山の中で何をしようとしているのかを探るのが今回の目的だが、向こうに対して俺たちも大軍を動かすわけにはいかない」
そこでこのメンバーで山の中に向かうことにしたんだ、とグラカスが言う。
しかし、それに対してティレフが疑問をぶつける。
「ちょっと待て。それはいいんだが……このメンバーだと騎士団のトップたちがごっそり抜けることにならないか?」
「おいおいしっかりしろよバーレンの騎士団長。俺たちで一気にカタをつけて締め上げて吐かせちまえばいいんだよ。俺たちがそんな奴らに負けっこねえんだし、偵察しているのも俺たちが信頼している奴らなんだからさ」




