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277.夜の特訓(その4)

 グラルバルトがそんなスタイルをとるのを見るのは初めてだとルギーレが思った次の瞬間、彼は一気に距離を詰めてきた。


「っ!?」


 まずはルギーレに右のハイキック一発。しかもまだ手加減しているスピードでありながら十分に速い。

 それを何とか上体を反らして回避したものの、体勢を元に戻した時にはすでにお互いの胸がくっつくぐらいの距離にまでグラルバルトが近づいていた。


「あっ」

『むん!』


 最初のハイキックがフェイントであり、全ては距離をゼロにまでするためのものだったと気づいた時には、すでにルギーレは投げ飛ばされて宙を舞っていた。

 股間の下に右手を入れられ、同時に左手で胸倉を掴みあげられて投げ飛ばされた後は地面に叩きつけられ、一気に近づいてきたグラルバルトに抑え込みに掛かられる。

 そのグラルバルトを蹴って遠ざけようとしたものの、今度は上手く胴体目がけて上から下に向かうパンチを何度も浴びせられる。


「ぐぐっ、ぐ……!!」

【ほほう、この状態でも抵抗するか。ならば少しフィニッシュを変えよう】


 投げ飛ばした後は抑え込んでギブアップをさせる予定だったのだが、ルギーレの必死の抵抗を見たグラルバルトは抑え込む対象をルギーレの身体全体から首に変更する。

 右のわきにルギーレの首をガッチリと挟み込み、身体全体を交差させるような姿勢に持っていく。


「が……がはっ、ぐえ!?」


 必死にロングソードを振り回して反撃しようとするが、抑え込まれている体勢では満足にそれを振るうこともできない。

 ならばと足をバタバタと動かして逃れようとするが、首の絞めつけによって力もなかなか入らない。

 踏ん張って立ち上がろうとすれば左の肘を背中に何発も落とされ、下に身体を落として抜け出そうとすればグラルバルトの膝によって腹を下から上に蹴り上げられ、もはや成す術がなかった。

 そんなルギーレの様子を見て力を緩めたグラルバルトだが、まだあきらめる様子を見せていないルギーレは息をぜえぜえと吐き出しながらも、まだロングソードを構えようとする。


『はっ!』

「ぐほっ!?」


 ならばとルギーレが立ち直る前に一気に勝負を決めるべく、グラルバルトは彼の身体を両手で押して間合いを開き、右手を床について身体を傾けてから左足でルギーレの腹を蹴り飛ばした。

 そのままたたらを踏んだルギーレは背中から壁にぶつかり、息が詰まってしまう。


「ぐぅ……!!」

『これまでだ』


 最後まであきらめない姿勢を貫いたのはよかったものの、圧倒的な技量の差の前にはどうしようもなく、そのまま右手で首を押さえつけられて壁に叩きつけられ勝敗は決した。


『よし、これで君たちの実力はわかった。魔術とか薬で回復もしたし、さっそく稽古をつけよう』

「い、今からですか?」

『当たり前だ。稽古が終わったら床を拭いて夕食を食べ、明日に備えて早く寝る。これだけだ』


 そこから始まった三人への稽古は、一人一人違うものとなった。

 接近戦闘の経験がほとんどないルディアには、まず基礎の基礎から教えられるだけ教える。

 ルディアよりも接近戦闘の経験があるルギーレには、より精度の高い戦い方や威力のある技の稽古を。

 そして騎士団長のティレフは体術もできているので、自分を相手に実戦を積ませる。

 ただしその内容には一切容赦がなかった。


『動きが遅い! もっと素早くだ!!』

「は、はいっ!!」

『相手の動きを見て臨機応変に対応しろ!! 一瞬の判断の遅れが死に繋がるんだ!!』

「はい……!」

『的の狙いがブレているぞ!! 最後まで気を抜くんじゃない!!』

「くそっ……!!」


 ほぼ未経験のルディアだろうが、経験豊富なティレフだろうが関係なしに檄を飛ばすグラルバルトの稽古はまだまだ続く。


『よし、じゃあ次は二人ずつになって組み手だ』


 技はなんでもいいので、今度は武器も魔術もなしの徒手格闘戦。

 それを見極めて、それぞれどこをどう直したらいいか、どうすればもっと隙のない戦い方ができるかなどをそれぞれに伝授するグラルバルト。

 動きに慣れてきたら徐々にスピードを上げ、更なる反射神経の向上も目指す。

 それもこれも、全てはこれから先の戦いに必要だと信じてとにかく必死になって食らい付いていく全員だが、何とか稽古が終わっても床磨きが待っていた。


『はい、じゃあ床磨きだ。その間に私は夕食を作っておくから』

「や、やっとか……」


 城で尋問をされ、ここまで移動してきてそこから手合わせをして、次はかなりハードな内容の稽古、最後に床磨きということで三人の体力も限界だった。

 それでも最後の気力を振り絞って、なんとか床を隅々まで磨く三人だったが、なぜか不思議な達成感があった。

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