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275.夜の特訓(その2)

 溜まり続けるフラストレーションに、だんだんとティレフの動きも怪しくなってくる。

 先ほどまで正確に突き込まれていたはずの狙いがブレ始め、疲れからかスピードも落ちてきている。

 対するグラルバルトはもともとがドラゴンということもあるのだろうが、それを差し引いても最小限の手の動きと下半身のステップしか動きを見せていないので、体力にはまだまだ余裕がある。

 そして何度目になるかわからないティレフの突き込みを察知したグラルバルトが、ここで初めて反撃に出た。


『はっ!』

「うお……!?」


 槍に対してグラルバルトの足が動く。

 突き込まれた槍を、左足を外から内側に向かって回すキックでティレフの内側に向くように弾く。

 疲れで下半身の踏ん張りもそろそろ限界に来ていたティレフは、いきなりの違う反撃に対応しきれず前のめりにふらついてしまう。


『しゅっ!!』

「ぐほ!?」


 ガラ空きの右脇腹にグラルバルトの強烈な左のフック。続けて顔面目掛けて右ストレート。

 まるで視界がなくなってしまったかのような感覚を受け、槍を落としてしまったティレフに、グラルバルトはトドメの下から上に向かって振り上げるつま先でのキックを確実に彼のアゴにヒットさせた。


「ぐひょぉ……っ」


 奇妙なうめき声を上げながら、そのまま背中から地面にドサリと倒れ込んだティレフを見て、グラルバルトは振り上げたままの足を下ろして仁王立ちになった。


『うむ、これで大体の実力はわかった。それでは最後はルギーレだな』

「ちょ、ちょっとその前にティレフさんを助けないと!」

『ああ、そうだな。ルディア、これをその男に注射してやれ』


 そう言いながら道場の片隅から持ってきたものは、瓶に入っている黄緑色の毒々しい雰囲気のする液体だった。

 ルディアはそれを見て顔をしかめる。


「な……何ですかこれ?」

『それは治療薬だ。セルフォンに頼んで作ってもらったんだよ。いろいろなケガに効くし魔力も回復するからな。それを打って少し楽な姿勢にさせてやれ』

「あ……はい」


 一緒に渡された注射器を使って、ルディアはティレフの血管にその薬を注射する。

 一方のルギーレは、手合わせの前にグラルバルトに聞いておきたいことがあった。


「あの、グラルバルトさん」

『何だ?』

「最初にティレフ団長を吹っ飛ばしたのってどういう攻撃だったんですか? 俺、よく見えなかったんですけど……」


 その質問に、グラルバルトは非常にシンプルに答えた。


『槍を避け、その体勢からあの男の側頭部に回し蹴りをした。これだけだ』


 最初にティレフが突っ込んだあの時、すでにグラルバルトには彼が振るうその槍の軌道が見えていた。

 一直線に突っ込んでくる。

 速さに速さをかけるのはいいが、間合いの広さが足りなくなっていると把握したグラルバルトは少し身体を動かすだけでよけることができると判断をし、まずはそこから一歩分横に動く。

 そしてその横移動の動きを使い、姿勢を低くして斜め上に振り上げる変則的な軌道の回し蹴りを繰り出したのだ。

 それが余りにも速すぎて、レイグラードの加護があるルギーレの動体視力を持ってしてもグラルバルトの身体がブレたようにしか見えなかったのだ。


(あの動きをする人間に擬態したドラゴン……そんなのが俺の相手なのかよ!?)


 一国の騎士団長を相手にして余裕たっぷりに対応し、息を一つも切らせずに倒してしまった。

 さすが四千年の歴史があるもんだと感心してしまうが、そんな男の次の相手は自分だと絶望感にさいなまれ始める。

 そのルギーレの心境を察したのか、グラルバルトが優しげに声をかけてきた。


『まあ落ち着け。あくまで君の実力を知るための手合わせだ』

「一国の騎士団長をあんな状態にしておいて、よく言えますね……。そもそも何であんなに挑発したんですか? 負け犬がとか、グラルバルトさんから絶対に出ない言葉だと思ってたのに」


 そういえばそこもどうしてあんなことをしたのか気になっていたルギーレ。

 当のグラルバルトにはきちんとした理由があってのことらしい。


『あの男は今までの言動を見る限り、プライドが高いように思えてね』

「プライド……」

『そうだ。騎士団長ともなれば何千人、何万人もの部下を抱える、騎士団の頂点に立つ存在だろう。プライドが高いのはいいが、高すぎると逆に足を引っ張ることにもなりかねない。シャラードと稽古をしたという君とのやり取りを見た時に、私はこの男は少し挑発してやれば簡単に乗ってくるんじゃないかと思ってね』


 その精神面でのタフさも見るためにあんな挑発をしたのだが、それにまんまと引っかかって突っ込んでくるとは彼はまだ未熟だな、とグラルバルトはどこか残念そうに言い切った。


『こういうのは余りよくないが、まだ君の方がいいかもしれない』

「お、俺が?」

『そうだ。君は自分の弱さを認めている。それを認めることこそが成長の第一歩なんだ』

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