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274.夜の特訓(その1)

 そのティレフからの忠告の後、いよいよ伝説のドラゴンによる稽古が始まる。

 まずは三人の実力を見させてもらうべく、それぞれを相手にしてグラルバルトが素手で戦うと言い出したのだ。


「魔術は使ってもいいんですか?」

『ああ、いいだろう。この道場は基本的には武器術や体術専門だが、万が一に備えて魔術を使っても壊れないように補強してあるからな』


 魔術王国と呼ばれているこのシュアにおいて、魔術以外のことで生計を立てるのはなかなか難しいものではあるが、一定の需要があるからこそこの商売が成り立っていると言うグラルバルト。


『言っておくが、最初から最後まで本気を出してくれ。そうでなければ私も君たちの実力がわからないからな』

「わかりました」


 その彼の言葉に対して、それでは遠慮なくやらせてもらうとルディアは特大のエネルギーボールを撃ち出した。

 炎のエネルギーを纏わせたファイヤーボールが一直線にグラルバルトに向かっていくが、それに対して彼は自分から突っ込んできた。


『ふっ!』


 もちろんそのまま直撃するわけもなく、彼はスライディングでファイヤーボールの下をくぐり抜ける。

 ルディアも今までの幾度とない戦いでその動きを予想し、距離を取りつつ今度は小さなウィンドカッターを無数に宙に生み出し、グラルバルトに向かって大きく右腕を後ろから振りかぶる指差しで向かわせる。

 無数の風の刃が人間に擬態している伝説のドラゴンに向かうが、伊達に四千年以上生きているだけのことはない彼にとっては、魔術を使わなくても避けられるレベルだった。

 彼は自分の右にある壁に向かって走り、そこから右手を壁につけたまま疾走。

 ウィンドカッターが迫ってくるタイミングを見計らい、片手のみの腕力と脚のバネを駆使して壁を使って宙返りを繰り出す。

 更に地面についてからも前転でウィンドカッターを避け、一気にルディアに肉迫する。


『おおらあっ!!』

「っ!!」


 グラルバルトから聞いたことのない種類の雄叫びに、一瞬ルディアの反応が遅れる。

 それを見逃さず、グラルバルトは彼女に足払いをかけて一気に地面に倒して押さえつけたのだった。


『魔術があるからと言って油断は禁物だな。それから大抵の魔術師に言えることだが接近戦には弱いということだ』

「……確かにそうですね」


 実際問題、あのベルタとの戦いでも一人では勝てなかったと思い返すルディアには武器術や徒手格闘などを学ばせようかと考えつつ、二戦目はバーレンからやってきた騎士団長のティレフが相手となる。

 だが、さすがに武器も何も持っていない相手に鍛錬用とはいえ槍を向けるのは、騎士団の人間として気が引けてしまうティレフ。


「本当に素手で問題ないのか? 何だか気が引けるんだが……」


 だが、そのセリフに対してグラルバルトは思いもよらないことを言い出した。


『なんだ? 私が君ごときに負けるとでも思っているのか?』

「君……ごとき……?」


 ピクリと動くティレフの表情を見て、更には腕を後ろに組んで余裕の表情を見せるグラルバルト。


『そうだよ。私は今こそ人間の姿だが、本来はこの世界で四千年以上生きている伝説のドラゴンだぞ。そんな私が君ごときに負けるようなことがあってはいけないだろう? そもそも君はシャラードにも負けて私に鍛錬をしてくれるように頼んできたのに、いざとなったら武器を振るえないのか? そんなんじゃあ騎士団長の地位が泣くぞ? この負け犬が』


 言葉で一気に畳みかけてきたグラルバルトに対峙するティレフの表情が、一気に怒りに満ちていく。

 そして一度ハハッと乾いた笑いを漏らしてから、一気にグラルバルトに向かって槍を構えて飛び込んでいく。


「その言葉、後悔させてやるっ!!」


 地を蹴って飛び込んだティレフは、槍を目にも止まらぬスピードで振るう。

 それはかつて自分に稽古をつけてくれたシャラードの槍よりも速い、とルギーレは確信したのだが、それを受けるはずのグラルバルトは腕を後ろに組んだままふっ……と身体を動かした。


「ぐおっ!?」


 次の瞬間、一直線にグラルバルトに向かっていたはずのティレフの身体が横に吹っ飛んだのだ。

 彼はそのまま地面を転がって、側頭部を手で押さえて呻き声をあげる。

 そして今この道場の床の上に立っているのは、相変わらず腕を後ろで組んだままのグラルバルトだった。


『どうした? その程度か?』

「ぐっ……まだまだ!!」


 一体何が起こったのかさっぱりわからないながらも、今のは単なる偶然だろうと槍を構え直して再びグラルバルトに向かって振るうティレフ。

 だが、グラルバルトはその振るわれる槍を左手だけを駆使して弾いている。

 右手は相変わらず腰の後ろに回したままで、余裕たっぷりの表情でバシバシと槍を弾き、ブロックして対応する。

 一方のティレフはいくら槍を突き込んでも弾かれ、薙ぎ払えばバックステップで回避される。


(当たりそうで当たらない……しかも片手で俺の槍が全て受け流されているだと!?)

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