26.予知夢再び
とりあえず違う町に向かうために歩き始めた二人だったが、その途中でルディアがふと大事なことを思い出した。
「あ……そうだ。さっきまで予知夢を見ていたんだわ」
「え? いつ?」
「だからさっきよ。さっきあの黒い連中につかまっていた時、目が覚めるまで私は予知夢を見ていたの」
「えっ、そうなのかよ!?」
実際に当たるかどうかまではわからないのが本来の予知夢なのだが、やけに鮮明にその内容が思い出せる時は、ほぼ必ずと言っていいほど予知夢になるのが自分の夢なのだとルディアは言う。
だが先ほどまでルギーレと一緒にディセーンの町から逃げ出すために奔走していただけあって、今こうしてふと思い出したのだとか。
「で、その内容ってーのは?」
「最初に言っておくけどろくなものじゃないわね。一言でいえば、ディレーディ陛下の命が狙われる夢よ」
「はっ?」
本当にろくなもんじゃないなとルギーレは思う。
この国の皇帝が誰かに命を狙われるとあれば、それこそ国家レベルの大問題だからだ。
しかし夢の話をしたところで、皇帝が信用してくれるかどうかはかなり可能性が低いだろうとも考える。
「それがもし真面目に起こるんだったら、早くディレーディ陛下に知らせに行かなきゃならねえだろ!」
「それは私もそう思うわ。剣を狙っている連中がいるってわかった以上、その剣を狙った連中に殺される可能性だって大いにありうるんだからね」
しかもルディアが見た夢の内容は、ただ単にディレーディの命が狙われている状況ではなかったらしい。
「どこかはわからないんだけど、どこかの部屋が炎に包まれていたの。そしてそこでディレーディ陛下が誰かに追い詰められていたわ」
「炎だって? それじゃなんとなく何が起こるのかはわかるぜ」
炎、ディレーディ陛下、そしてどこかの部屋ときたらルギーレにもわかる。
というよりも、この国で皇帝が追いつめられるという部屋はあの場所にしかないだろうと。
「よし、向かうは城の執務室だ!」
「それはいいけど、ここからだとすごい距離があるからまずはどうにかして移動手段を見つけないとね」
「それが問題だぜ……」
城の執務室、もしくは城のどこかが放火されて、その炎の中でディレーディが誰かに殺されるのだとしたら急がなければならないが、まずそこまでの移動手段を確保しなければならない。
しかし今の二人が歩いているこの街道を、そんなに都合よく通る馬とか馬車などは見当たりそうになかった。
そこでルディアが思いついたのが、懐から取り出した石による連絡方法だった。
「仕方ないわね、だったらこれを使うしかなさそう」
「ん? それってもしかして魔術通信に使える石か?」
「そうそう、それよ。結構な値段がするんだけど、こんな状況じゃなりふり構っていられないからね」
魔術通信。
それはこの世界に存在する、その場にいながら遠くにいる人間とすぐに連絡が取れる画期的な手段である。
魔力と魔術を使用し、遠くの人間と魔力をつなげて通話ができるのだ。
基本的に通話の方法は二つ存在する。
一つはルディアが取り出した赤い石を媒体とし、話したい相手の連絡先を文様にした特殊な紙を石に貼り付け、その状態の石に魔力を送り込むことによって話ができるのだ。
ただしこの方法には時間制限があり、最大で十分までしか通話が不可能である。
その十分が過ぎてしまうと、通話の途中であっても石がバラバラと砕けてしまって強制終了させられてしまうのだ。
再び通話をするのなら新しい石を買わなければならないのだが、なかなか高価な製品なのでおいそれと買えるものでもないのだ。
「さっきの町に魔術通信のスポットってなかったっけ?」
「そんなの確認してる場合じゃなかったから見てないわよ。それにあったとしても、待ち伏せされている町に戻るわけにもいかないでしょ」
もう一つの通話手段は、町に設置されている「通信スポット」と呼ばれる場所から連絡を取るものである。
これは大人の男ほどの高さがある大きな石の前で、文様を書いた紙を貼り付けて魔力を送り込むことで通話が可能になる。
こちらは制限時間はないのだが、携帯できる通信用の石とは違いその大きな石の前から動くことができない上に、ほかの人間と共同で使わなければならないため順番や通話の長さなどでトラブルになることもある。
それに場所をとる上に、設置も継続的に魔力を送り込まねばならなくて大変なので、それぞれ一長一短といえるだろう。
ルギーレは勇者パーティーにいたときにどちらも利用したことがあるのだが、この新たなパーティー構成になってからは初めてである。
「まあそれもそうだな。それじゃ通話頼むぜって言いたいけど、どこに連絡するんだ?」
「決まってるでしょ、お城よ」
「ええっ、連絡先知ってんのか!?」
そりゃあ確かに、ディレーディの危機を知らせるなら城に連絡をしなければならないのだが、城にいきなり通話をしてまともに取り合ってくれるだろうか?
そんなルギーレの心配は杞憂に終わったようである。




