270.失踪した魔術師たち
久しぶりに出会ったこの紫髪のシュアの国王、レフナスは前に見た時よりも背が高くなり、顔つきも凛々しくなったように見える。
それだけ長いこと来ていなかったかなあ? と首をかしげるが、一方でもしかしたら自分が前回は余りレフナスの姿をよく見ていなかったのかもしれないとも思ってしまうルギーレ。
そんな彼に対して、この国の若き国王は今まで自分たちに関わってきた王国騎士団や魔術師たちとは違い、強引さの欠片も見せず穏やかに接してくれる。
「お久しぶり……ですよね? ええと、勇者パーティーの……」
「ルギーレです」
「ああ、ルギーレさんですね」
(覚えられてなかったのか……)
彼の反応はある程度予想していて、この穏やかな態度でもなかなかにショックは大きいものだが、今更それをああだこうだ言っても仕方がない。
「それよりも陛下、俺に手伝っていただきたいことがあるって話を聞いたんですけど何なんですか?」
「はい、その件ですがまずはこちらをご覧ください」
そう言いながらレフナスが左手をスッと上げる。
すると玉座の傍らで控えていた赤髪の宰相、アルバスがルギーレに一束の書類を差し出してきた。
「……これは?」
「実は今、この国から魔術師が徐々に失踪していましてね」
「失踪?」
魔術王国と呼ばれて、地下牢の設備からもわかるぐらいに最先端の技術が注ぎ込まれているこの国から魔術師たちが失踪しているとなると、国の存亡に関わるような事態になっているのだとルギーレはすぐに察しがついた。
その詳細を宰相のアルバスが語り始める。
「この先は私が説明しましょう。魔術師が失踪し始めたのは今から二か月ほど前でして。最初は魔術の研究に疲れた魔術師が置き手紙を残してそのままいなくなってしまいましたが、退職届や制服なども残されておりましたので事件性はないと判断していました」
しかし、その魔術師の置き手紙を残しての失踪からおよそ三週間後、今度は数名の魔術師たちが一気にいなくなるという事件が発生する。
しかも制服だけ残ったままで、荷物を最小限にまとめて忽然と姿を消してしまったらしく、その所在は今でもつかめていないとのことである。
「魔術に関しての機密事項も頭の中に入れたまま突然失踪してしまったとなれば、当然大騒ぎになりました。そこで国内すべての検問所に厳戒態勢を敷いて、空からも脱出できないように小型の偵察魔術機械を飛ばして監視を強めていたのですが、それでも見つからなかったのです」
『ええっ、それじゃまだこの国にその魔術師たちがいるってことにならないか?』
横で一緒に話を聞いていたグラルバルトも驚きの表情を隠せないが、それは当事者たちであるレフナスやアルバスが一番感じていることであった。
「その線も考えて国内に捜査網を広げていたのですが、それでも見つかりませんでした。列車の駅や列車の荷物室、それから船の積み荷や森の中などありとあらゆるところを人海戦術で探し回りましたが、それでも見つからなかったのです」
『ふぅん……じゃあ、本当にその連中はどこに行ってしまったのだろうな?』
そこで横から話に入ってきたのがレフナスだった。
「なので、私たちもこの事態を重く見てある方に協力を依頼したのです」
『ある方?』
「はい。それがあなたの……黄色いドラゴンのグラルバルト様の知り合いであり、赤いドラゴンで貿易商をされているエルヴェダー様です」
『あ……そういや彼もそんなこと言ってたっけなあ?』
そうだ、そういえばそうじゃないか。
以前その貿易商と話をしたときに、王国騎士団と魔術師部隊の人間たちが俺様のところに来たよーと苦笑いをしながら言っていたのを思い出したグラルバルト。
だが、今になっても解決していないとなればこれは厄介なことになりそうだと考えているシュア王国の人間たちに対して、大した協力もできなかったとも言っていた。
『彼は貿易商であって、港や空の管理人ではないからなあ。私たちは確かに世界の看視者ではあるが、基本的に人間の暮らしに関してはノータッチなんだ』
「では、北の島にルディアさんを助けに行ったのは特別なことだと?」
『それまで聞かれていたのか……まあ、助けたのは私ではなくて灰色のセルフォンってドラゴンなんだが、君たちの言う通り特別な措置だ。あそこは私たちにとっても特別な場所だからな』
それよりも、とグラルバルトは話を本題に戻す。
『エルヴェダーは他に何か言ってなかったか? その魔術師の失踪について』
「いいえ、あなたに報告した通り大した話は得られませんでした。ただ一つ、可能性として『他の国が関わっている可能性もあるのでは?』とはおっしゃっていましたが」
レフナスの言葉を聞いていたアルバスもうなずく。
「それを聞いて、一番魔術師たちが向かいそうだと思っているヴィーンラディ王国に連絡を入れてみたのですが、そうしたらそちらでも魔術師たちの失踪が確認されたそうです」




