265.魔力を抜く方法
だが、ここでルギーレに一つの疑問が沸き上がる。
「ん? ちょっと待ってくださいよ。それだったら俺はとっくに消えてなくなってませんか? そのルヴィバーみたいにモヤに吸い込まれていても変じゃない気がします」
そのルギーレの疑問に、質問で返答するグラルバルト。
『あれ? セルフォンかシュヴィリスから聞いていないか? 魔力は時間が経つにつれて自然に抜けていくものだと』
「ん~……?」
聞いたことがあるようなないような。
正直今までの話がいろいろとありすぎて自分の頭の中が混乱している状態なので、ルギーレは今までの記憶をすべてリセットしてここで改めてグラルバルトから聞かせてもらうことにする。
「ちょっと覚えていないです……」
『わかった。それだったらしっかり説明しておこう。まず魔力というものは、この世界で生命活動を終えた生物から徐々に抜けていく。これはわかるな?』
「はい、それは知っています」
生物の命がなくなると、それに伴って魔力もなくなってしまう。
身体の中に溜められる魔力の量は人間によってそれぞれ上限があるものの、命が尽きれば徐々に身体の中から抜けていき、最後には空となってしまう。
それと同じことが、レイグラードにも起こっているというのだ。
『レイグラードは生きている。意思を持っている剣なんだ』
「意志を持つ剣……」
『ああ。だからこそ君の手を離れても何度も君のもとに帰ってくるんだし、敵に奪われても何も心配はいらないんだよ』
「それはそれで嬉しいような、反応に困るような……」
無くしたものが自動的に自分のもとに戻ってくるのは探しに行く手間が省けなくて済むのだが、最終的に自分もルヴィバーみたいになってしまうのだろうか?
それを考えるとこの先、レイグラードと一緒にやっていけるのか心配になるルギーレ。
だがそれをグラルバルトに聞いてみると、彼は首を横に振った。
『いいや、魔力を定期的に抜いてやればいい。負の魔力を溜めなければ、君は自分が死ぬまで一生そのレイグラードの所有者として認められ続けたままになるのだからな』
「では、抜く方法があるってことですね!?」
『ああ。その方法は二つ。まず一つはさっきも言った通り、魔力が自然に抜けるのを利用して使うのを控え、放っておくこと。だけどこれはこの先も戦いが待っているだろうから現実的ではないだろう?』
「うーん、確かにそうですね」
シュヴィリスからは以前、この先レイグラードを使い続けると死ぬといわれたことはあった。
だがグラルバルトがそう言うのであれば、七匹のドラゴンの最年長である彼のことを信用してみようとルギーレは思いつつ、二つ目の方法について尋ねる。
「じゃあもう一つの方法は?」
『それなんだがちょっと特殊なんだ。一言でいえば、誰かにその魔力を譲るということだ』
「魔力を譲る?」
聞いたことのない言葉の意味を問うルギーレだが、彼が少しずつかみ砕いていけるようにグラルバルトは説明する。
『そうだ。魔力は内部に溜め込むだけでなく、自分で外に放出することもできるだろう? 例えば君と一緒にいるルディアだったら魔術を発動するために魔力を消費するわけだし、君だって魔術は使えないかもしれないが魔力を足や手に送って走る速さをアップさせたり、重い荷物を軽々持てるようになるだろう?』
「ええ……レイグラードの攻撃力をアップさせたり、必殺技を繰り出したりするのにも使いますが……もしかしてその応用で他人に魔力を譲るということですか?」
グラルバルトはうなずく。
『その通りだ。君の中にある魔力を、レイグラードの中にある魔力に混ぜて一気に放出してやればいい。さっきも言ったがレイグラードは生きている剣だからな。言葉でのコミュニケーションは不可能だとしても、レイグラードの中にある魔力を放出したいと念じればそれに応えてくれるはずだ』
ただし、とグラルバルトは一つだけ注意事項も一緒に伝えておく。
『負の魔力というものは、君たちや私たちのように生物の中に普通にある魔力とは違う。それはレイグラード出来られた相手の恨みや妬み、憎悪などの感情が混ざったネガティブな気持ちが魔力となったものだから、放出した時の反動も大きい』
「反動……?」
『そうだ。それこそルヴィバーのように黒いモヤに包まれて消えてしまったり、斬られた場所から徐々に体が溶けていったりするおぞましい光景が繰り広げられるだろう。だが、負の魔力をそうやって放出しなければ今のようにベッドの上で寝たきりになるぞ』
「それは……嫌ですね」
だからこそ、定期的に抜いてやることが必要なのだとグラルバルトが言ったその時、部屋のドアがコンコンとノックされた。
ルギーレにはもう一つ聞きたいこと……誰が何の目的でレイグラードを創ったのかをしっかりと聞きたかったのだがそれを中断されてしまい、ドアの方に目を向ける。
だが次の瞬間、グラルバルトの応対を待たずしてドアが乱暴に開け放たれた。




