264.回復したルギーレ
「うー……ああ、なんとか気分は良くなってきましたかなー……」
『それならよかった。だけど、今ルディアとティレフは城へと行ってしまったぞ』
「ああ……そういやそうでしたね」
具合が悪い状況であっても、意識はあったし会話もできていたのでベッドの周りで起きていたことは覚えているルギーレ。
だが、さすがにこんな体調ではどやどやと部屋になだれ込んできたシュア王国の騎士団員や魔術師たちを止めることはできなかった。
「あいつら、ルディアやティレフさんと何を話しているんでしょうね?」
『さあな。だがこうして私たちの元にレイグラードが勝手に戻ってきたことを考えると、またこの宿に騎士団の人間や魔術師たちがくるだろうな』
「でしょうね……」
今までとは別の問題がいろいろと噴出しているみたいだが、自分がこんな身体では旅を続けるのも無理そうだ。
しかしその時、ふとルギーレはグラルバルトに聞きたいことを思い出した。
「ああ、そうそう……レイグラードのことで聞きたかった話があるんですよ」
『何だ?』
「いやね、そのレイグラードの刃の付け根に不思議な形の窪みがあるんですけど、他のドラゴンの人に聞いてもわかんなかったんですよ。それって何なのかグラルバルトさんなら知ってますかね?」
『窪み……?』
何だそりゃと思いながら、グラルバルトは立てかけてあるレイグラードを手に取って鞘から刀身を引き抜く。
そして自分の目で見て、確かに窪みがあることを確認する。
『これ……ドラゴンの牙の形じゃないかな?』
「牙ですか?」
『そうそう。でもこれってつけようと思ってつけたんじゃなくて、勝手についたような気もするんだがなあ』
だがベタベタと窪みを触って確認していたその時、グラルバルトはあることに気がついた。
『あれっ、この魔力の残滓は……もしかしてあいつのかな?』
「あいつ?」
『ほら、ティレフがいる時に話しただろう。黒いドラゴンの魔力の残滓があるんだよ』
「えっ、わかるんですか!?」
触っただけで何なのか見当をつけてしまったグラルバルトに驚きながらも、その続きを聞くべく身を起こして待つルギーレ。
その彼を見ながら口を開いたグラルバルトからは、やや自慢げなセリフが出てきた。
『ああ、わかるさ。君たちが出会ったというドラゴンは今のところ、セルフォンとシュヴィリスの二名だけだろう? 私はその二名よりも千五百年から二千年近く長く生きているのだから、あいつらにわからないことがあっても仕方はあるまい』
「は、はあ……」
その気持ちはわからないでもないルギーレだが、なんだかリアクションに困ってしまう。
そんな彼をよそにして、グラルバルトはその窪みについて話し始める。
『黒いドラゴンの話は君もここで聞いていただろう。私たちのリーダーがその黒いドラゴンなんだが、今は北にある霧に覆われた島で寝ているのだと』
「そうですね」
『先に言っておくが、あの黒いドラゴンは私たち七匹のドラゴンの中で一番凶暴な性格でな。黒以外だと緑が一番短気なのだが、黒いのはそれ以上なんだ。それでこの窪みについて結論から言うと、恐らくこれは前の所有者であるルヴィバーが使った時についた、黒いドラゴンとの戦いの証拠だろうな』
「え……ルヴィバーって黒いドラゴンと戦ったんですか?」
『……ああ、実をいうとそうなんだ』
グラルバルトの話をまとめると、ルヴィバーはその当時人里離れたところで魔物たちを相手に暴れまわっていたドラゴンの存在を知り、それを退治するために出かけた。
そしてその暴れていたのが黒いドラゴンだったらしいのだが、ルヴィバーが思いのほか善戦したらしく、ドラゴンの身体にいくつもの傷を負わせて撤退させたらしいのだ。
『だが、その代償は大きかった。黒いドラゴンからその刀身に傷を負わせられて、相打ちのような形で撤退してから一か月ぐらいしたころか……ルヴィバーの身体が徐々に黒いモヤに覆われ始めた』
「えっ、それってもしかして……噂の?」
『そう、それが噂の黒いモヤの正体だ。シュヴィリスから聞いていた負の魔力がそのモヤになって使い手を飲み込むっていう話は間違っていないんだが、実際に大人の人間一人を飲み込むためはもっともっと魔力が溜まらない限り無理な話なんだ』
そこまで聞き、ルギーレはピンときて神妙な顔つきになった。
「もしかして、黒いドラゴンと戦って傷をつけたりかぶり付かれたりしたから魔力がすごく溜まった……?」
『まさにその通りだ。私たちの魔力は膨大だからな。生き血をその刀身にしみこませ、かぶり付かれて魔力が残ればそれは人間を千人斬るよりも多くの魔力を溜め込むことになる。そして……それが積もりに積もった結果がルヴィバーの最期というわけだ』




