261.一足先に到着したあの連中
ウィタカーとヴァレルとトークスの三人はニルスたちと別行動を取る形にして、一足先に偵察という名目でシュア王国にたどり着いていた。
だが、本音を言えばあの連中となるべく一緒にいたくなかっただけである。
「あ~~~、やっと着いたぜ!!」
「そうだな。ラーフィティアから結構距離があったからな。それでまずはどこで何をするんだ?」
「ひとまず腹ごしらえだな。それからどうやってあの連中と手を切るかって話に持っていくかだが……」
そう、実をいうとこの先のプランは何も決めていないに等しい。
いずれはニルスとかいうあのうさん臭い奴と手を切って、自分たちの力で世界征服を目指すために行動しようと考えているウィタカーたちなのだが、どこからどう行くかが問題である。
しかしまずは腹ごしらえということで、何か胃に収めるべく近くの店に入った。
黒ずくめの集団はなかなかに目立つのだが、それ以上に謎の威圧感を周囲に与えているからか誰も話しかけてこようとする者はいない。
注文を取りに来る店員の顔もなんだかひきつっているが、人を寄せ付けないのであればその分これから先のプランを立てるのにちょうどいいシチュエーションが作れる。
そしてまずは、ニルスのもとからいただいてきてしまった物品を確認する。
「実をいうとよぉ、俺……持ってきちまったんだよなぁ。あのニルスの目が届かないうちにこれをさ」
「おい、それってもしかしてあのレイグラードの偽物じゃないのか!?」
二人の傭兵たちがウィタカーに突然見せられた、イディリークから奪ってきたレイグラードの偽物。
トークスはそれを見て、小声ながらもかなり驚いたリアクションを見せる。
だが、その横で相棒のヴァレルがもっと驚くべきものを持ってきてしまっていた。
「え、おっさんそれ持ってきたのかよ? じゃあ俺もすげーもん見しちゃおっかな」
「……お前、まさかそれは……」
「そうそう、まさかの宝玉でーっす!!」
ヴァレルが荷物の中から取り出したものは、「本物の」レイグラードにはめ込めるもう一つの宝玉であった。
ウィタカーもヴァレルも、ただ謀反するだけでは芸がないと思ったのでそれぞれ仲間を軽く扱われた復讐もかねてこうして物品を持ってきたのだが、その二人が持ってきたものを見ていたトークスが腕を組んでニヤリと笑みを浮かべた。
「……そうだ、いいことを思いついたぞ」
「どうした?」
「この先、いずれどこかでまた本物のレイグラードを使っているあいつと出会う時が来るかもしれない。情報によればあのレイグラードについている宝玉は一つだけ。そしてこっちの宝玉も一つしかない上に、精巧に作られたこの偽物のレイグラードがある……どうだ、やってみる価値はあると思わないか?」
「はー、なるほどなぁ!!」
それを聞き、ウィタカーもヴァレルもうんうんと納得してうなずいたに見えたのだが、ヴァレルからの次の一言はトークスを唖然とさせた。
「で、何すんだ?」
「……わかっていなかったのか」
相棒の察しの悪さにがっくりと肩を落としてから説明しようとするトークスだが、一方のウィタカーはトークスが何を言いたいのかわかっているので、彼の代わりに説明することに。
「つまり、このニセモンのレイグラードと本物のレイグラードをどこかですり替えて手に入れるってことだよ」
「……ああ、そっかぁ!」
「やっとわかったのか。まぁ、この先で何をするというプランもないのだから、とりあえずはそのすり替えを目標にしよう」
バーサークグラップルのアジトは世界各国に点々とあるのだが、今までレイグラードに関わったおかげでその部下の数もだいぶ減ってしまった。
だったらそのレイグラードを本物とすり替えてしまえばいい。
「ちょうどいい具合に宝玉も本体も、こっちと向こうに一つずつ。どこかで偽物と本物をすり替え、二つの宝玉を本物の方にはめてしまえば偽物に用はなし。あのルギーレとかいう男の悔しがる顔が今から目に浮かぶぜ!」
思わずニヤケ顔になってしまうウィタカーだが、肝心のルギーレの居場所がつかめていない。
ラーフィティアの王都が爆発してからその消息がわからなくなってしまったのだが、三人の中で一番の頭脳派であるトークスがある程度の目星をつけてこうしてシュアまで行くように進言したのだ。
「シュア、アーエリヴァ、ヴィーンラディの残り三か国が、まだあいつらの行っていない国だからな。きっとそのどこかに向かうと思っているのだが、ルディアという女はヴィーンラディから逃げてきたという話を耳にしている。ということはそっちは避けると思った」
「で、アーエリヴァかシュアか迷ってこっちにしたんだったよな」
「そういうことだ。まあ、あのニルスもシュアを次に攻めるとかって言っていたから偵察という名目で一足先にこうしてついたわけだが……」
そこまでトークスが言った時、店の外が何やら騒がしくなった。




