260.尋問、そして……
そうして通されたティレフもまた、グラカスとアーロスから尋問を受けることとなってしまった。
ただし彼の方はルディアと違い、彼女やルギーレからの情報でしかレイグラードのことを詳しく知らないのだ。
それに彼はここに来る前に交わしたグラルバルトとの約束で、今のルディアでさえも知らない情報を頭の中に入れてきただけあって、少なくともそれだけは絶対に話すわけにはいかなかった。
もしうっかり口が滑って話してしまおうものなら、グラルバルトからどんなお仕置きを受けるかわかったものではないからである。
「俺もレイグラードについてはルディアと同じくらいしか知らないよ」
「だったらどうしてこの国に来たんだ?」
「シェリス陛下からの命令で、俺がこの先の旅路に一緒について行くことになった。これで十分だろう?」
「てめえっ!!」
ガタンと椅子を倒しながら立ち上がったグラカスを、先ほどと同じくアーロスが止めた。
「おいおい、落ち着けってグラカス団長」
「ちっ……」
「そもそもどうしてお前たちはそんなにムキになっているんだ?」
そんなに身を乗り出してまで聞かれるような話をしているのだろうかと、ティレフは心の底から疑問に思ってしまう。
心当たりがあるとすれば、恐らくレイグラードにまつわることで騒ぎが起こっているのを知ったこのシュア王国の人間たちが、自分たちの国でも同じように問題を起こされてしまうのではと心配になっていろいろと聞いている……ぐらいにしか思えない。
「ムキにだと? そんなの当たり前じゃねえか。この国をなんだと思ってんだよ。魔術王国って呼ばれてんだぞ? そんな国にこんな魔力をすげえ感じる伝説の剣を持ってやってきた奴を尋問しないわけがねえだろうが!!」
「ああ……そっちの方か。でもどうしてこの剣がレイグラードだってわかるんだ?」
「それはセフリスのおかげさ。あいつが自分の記憶の中からレイグラードの情報を引っ張り出して気にしてくれたおかげで、いろいろと調べてわかったんだ。これがその聖剣だってな」
アーロスは自分の部下の功績を自慢げに話すが、一方のルディアとティレフは気が気でない状態である。
「あのぉ……そのレイグラードってこれからどうなってしまうんですか?」
「どうなるもこうなるも、俺たちが気の済むまで調べ尽くす。だから預からせてもらうぜ」
それぐらいわかんだろ、と鼻で笑いながら付け足すグラカスだが、ルディアとティレフはほぼ同時に同じ言葉が出てしまった。
「無理だと思う……」
「それは無理だ」
「え?」
「無理って何がだよ。俺たちの何が無理なんだよ? 言ってみろコラ」
完全にガラの悪い騎士となっているグラカスだが、その答えは二人が言葉で証明するよりもレイグラードそのものが身体を張って説明してくれるらしい。
なぜなら、机の上に置きっぱなしの状態が続いていたレイグラードが突然カタカタと勝手に音を立てて動き出したからである。
「なっ、なななんんだぁ!?」
「何事だ!?」
とっさに机から離れ、それぞれロングソードと杖を構えるグラカスとアーロスの二人だが、座っている二人はレイグラードの動きを見てどこから飛んでいくのかが予想できた。
「ルディア、道を開けよう」
「そうですね」
スッと椅子から立ち上がった二人の間を、人の手を借りずに机から浮かび上がったレイグラードが鞘に入ったまますり抜けて行き、その先にある窓の外へと飛んでいってしまったのだった。
残された四人のうち、シュア王国騎士団の二人の表情は両者ともに呆然としたものになっており、ルディアとティレフは「やっぱりか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。
そして一番先にハッと我に返ったアーロスが、先ほどヒートアップして二人に詰め寄っていたぐらかすをもしのぐ勢いで二人に肉迫する。
「おいっ、今のは何なんだ!? 何が起こった!? どうしてああなった!? 剣が勝手に一人で飛んでいくなんてそんなことがあっていいわけがないだろ!? 世紀の大発見だぞ! 前代未聞の出来事だぞ!! 説明しろ! さぁ早く! そしてわかりやすくだ!!」
「ちょ、ちょっと待て……苦しいって……」
ティレフの着こんでいる上着の胸ぐらをつかみ上げて口を回しまくるアーロスを、今度はグラカスが羽交い絞めにして止めるという先ほどとは逆の構図になっている。
(あの様子だと、おそらくルギーレの寝ている宿屋に向かったわね……でも、グラルバルトって人も一緒にいるってさっきティレフさんから聞いたし、後は向こうは向こうで任せましょう)
だが、あんな光景を見られてしまっては説明するまでここから出してもらえなさそうだ。
二人は慎重に、話していいことと悪いことを頭の中で整理しながら、話せる範囲でシュアの二人の質問に答え始めた。




