259.並々ならぬ関心
「……ですから、私は何も知らないんですよ!」
ブラハード城に先に着いていたルディアは、目の前の机に置かれているレイグラードのことについて何も知らない、というスタンスを貫くことに決めていた。
この人間たちにレイグラードについての話をするのは危険だ。
自分の中の女のカンがそう告げているのを、ルディアは感じ取っていたからだ。
しかし、彼女にいくらしらばっくれられようともシュア王国の面々にあきらめる選択肢はなかった。
「知らない知らないって言われてもなあ、俺たちの前でそう言い続けるのは無駄だから知ってること全部話しちまった方が身のためだぞ?」
「そうそう、グラカスの言う通りだからな」
机を挟んだ彼女と向かい合わせになって取調べ室の椅子に座っているのは、金髪を逆立たせて腕を組み、足を大きく広げて尊大な態度を隠そうともしない大柄な体躯の第一騎士団長グラカスと、セフリスの上司であるという白髪に水色の瞳を持っている魔術師部隊の隊長のアーロスという男の二名であった。
彼らはセフリスの連絡を受けてルディアが何かを知っていると睨んで、ティレフが不在の間に勝手に連れてきてしまったのであるが、なかなか口を割ろうとしない彼女との我慢大会に発展していた。
そしてついに我慢の限界が来たグラカスが、両手でバァンと机の上に自分の両手を叩きつける。
「いい加減にしやがれっ!! このロングソードがレイグラードであることも、お前があのベッドに寝ていたレイグラード使いの男と一緒に旅をしていることも知ってんだよ、俺たちは!!」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
「そりゃあいろいろな国で騒ぎが起きていれば、嫌でもこの国にだってその話が入ってくるんだよ。特にファルスの帝都とか町が襲撃を受けたとか、バーレンで列車が破壊されたとかってのは、俺たちシュアとつながりの深い国だからそんなのすぐにわかっちまうんだぜ?」
身を乗り出したグラカスがルディアに詰め寄るが、だからといってルディアも負けない。
「それがどうしたんですか? 確かにそういうことがあったのは私もルギーレも聞いていますけど、私たちに関係ない話かもしれないじゃないですか」
「……っのアマあ……本気で泣かせてやろうかぁ!?」
「待て待てグラカス、俺に任せろ」
そう言いながら手でグラカスを制したアーロスは、改めてなぜ自分たちがその話を知っているのかを説明しつつ、ルディアの疑問に答える。
「最近、短期間のうちにさまざまな国が謎の集団によって襲撃を受けている。その件に関して俺たちが調べた結果、どの国の襲撃にもレイグラードの存在があったことが明らかになっている」
「……」
「それがこの剣だ。お前と関わった人間たちの中には、俺たちと仲がいい人間も存在しているからな」
「ま、まさか誰かがあなたたちに情報を流していたの!?」
しかし、アーロスは首を横に振って否定する。
「いいや、そうじゃない。襲撃を受けたちょうどその日にこちらからファルスやシュアに向かっていた人間がたくさんいてな。その人間たちからいろいろと教えてもらった結果がそれだ」
そしていつもは真面目でクールなセフリスが、何者かからの連絡を受けてそそくさとこのブラハード城から出ていくのを、第三騎士団の面々が多数目撃していたこともあって、こっそりと後をつけてみたら宿屋にたどり着いたという。
「で、俺はセフリスの上司だからな。騎士団の一つでもある魔術師部隊でも、基本的に上司の命令には逆らえないから、ここまでお前を連れてきてもらったんだよ」
そうして叩きまくった結果、ゴッソリとホコリが出てきそうな段階だという。
もう少しで出そうなのになかなか出てくれない今の状況だが、もっと粘ってみれば話は絶対してくれるはずだ。
「俺たちも取調べ以外に仕事がわんさか溜まってるからさぁ、今の押し問答続けててもらちあかないし、早く終わらせたいわけ。お前からいろいろと出てくれればそれで事は済むんだよ」
「だからレイグラードのことについてはこれ以上何も知りませんって!」
「へー、じゃあこの柄の部分にある妙な宝玉とかおかしな窪みとかについても知らねえってのか?」
だがそこまでアーロスが問いかけた時、取調べ室のドアがコンコンとノックされた。
そして入ってきたのはセフリスである。
「ちょっといいか?」
「おう、どうした?」
「実は下にバーレン皇国のレルトイン騎士団長が来ているんだが、通しても問題ないか?」
「えっ、ティレフさんが!?」
思わずそう声を上げてしまったルディアを見て、グラカスはニヤリと「やったぜ」と言いたげに笑みを浮かべた。




