24.反撃と脱出と現状把握
「うぐぅおあ!?」
「ウィタカー!!」
超至近距離からまともに炎を浴びたウィタカーは、その衝撃で後ろに吹っ飛んで尻もちをついてしまった。
上半身が燃えてのたうち回る彼を助けようと、脱いだコートでバンバンと叩いて火を消すトークス。
その横では、自分にまとわりついているロープを素早く外して自由の身になったルディアの姿があった。
「逃げるわよ!!」
「えっ……は、起きてたのか!?」
「さっきからずっとね。手首のロープもこっそり後ろの壁にこすって解いたし、さっさと逃げるわよ!」
ルディアはルギーレのロープも素早く解いてやる。
その一方、未だに火を消すのに苦戦しているトークスに蹴りを入れて吹っ飛ばしたルギーレは、いきなり激しい行動に出たルディアに驚きを隠せないまま彼女の手を取って走り出す。
向かうは、この狭くて汚い小部屋の出入り口のドアであった。
「うおらあ!!」
気合い一発、そのドアを全力で蹴り破って部屋の外に出ると、どこかの見知らぬ町の路地裏に出た。
どうやら自分たちが閉じ込められていたのは、その路地裏の一画に位置している空き倉庫か何かだったらしい。
とにかくここから出られたのは大きな第一歩だったので、あの二人が追いかけてこないうちに逃げ切る算段を取る。
「とにかく広い通りに出て、人混みに紛れちまおう!」
「わかったわ!」
人混みに紛れてしまえば、列車の中でトークスが言っていたように、この体内に残っている異質な魔力も簡単には感知されないだろう。
そう考えたルギーレは、とにかく行き止まりにぶつからないように祈りながら右へ左へ路地を駆け巡って、やっとのことで大通りへ出ることに成功した。
「はあ、はあ……ここまで来りゃあひとまずは大丈夫そうだな」
「ええ。でもここがどこなのかをちゃんと調べないと。それからディレーディ陛下にも剣を狙う連中がいるって知らせた方が良さそうね」
まず、この町がどこなのかは立て看板やすぐ近くの店でもらった国の地図ですぐに判明した。
国の地図で言えば右上の方に位置し、アーエリヴァとの国境からさほど離れていないディセーンという小さな町だった。
ただしここには列車の線路は敷かれておらず、移動手段としては徒歩か馬かもしくはワイバーンを使うしかないのである。
ということは、ここは列車の線路が通っている場所からはかなり離れている。
さらにあの部屋までずっと眠っていたのは、自分たちが吸い込んでしまったあのボールからの煙が、いかに強力な睡眠薬だったかもわかる。
「くそっ、とにかく移動手段を見つけて早くここから出ねえとな」
「ええ。あなたを連れてくるためだけに列車を襲って爆破するなんて、普通の人間のやることじゃないわ。完全に頭がおかしいわよ、あの連中」
相手はかなりの大人数だと推測できるので、この町で人の中に紛れるのにも限界があるだろう。
どこに仲間がいるかわからない以上、さっさと移動手段を見つけてこのディセーンの町から出てしまうのが一番である。
そう考えた二人は、町の人間たちに出入り口の方向を聞いてそこまで素早く歩き始めたのだが、チラホラと聞こえてくるのは自分たちが遭遇した列車強盗の話だった。
「怖いわよねえ、列車が盗賊団に襲われたって……」
「ああ。しかも乗客は全員皆殺しだろ? 車掌も殺されて、その上で爆弾か何かで列車を爆破されて、線路もぶっ壊れたって……」
「そうらしいわね。おかげで今、列車でアーエリヴァ方面に向かうことができなくなっちゃったんだから……」
列車爆発の話が、線路が敷かれていないはずのこの町でまで噂になっていることから、相当な大ごとになっているのはわかった。
しかし、ルギーレが引っかかっているのはそこではなかった。
「あの列車を爆破できるとなると、列車に追いつくためとか退避のためとかの移動手段も馬を使うだろうし、それなりの人数も所属している盗賊団ってことになるよな?」
「そうなるわね」
「だったらここを出た後に別の町とか村であの盗賊団の情報収集もした方がいいかもしれねえな。きっと一人か二人は盗賊団のことを知っている人間がいてもおかしくねえだろうよ」
だが、ウィタカー率いる盗賊団は確実にこの二人を捕らえることのできる方法で待ち伏せをしていた。
そう、町の出入り口が一つしかないことを知っている彼らは、その出入り口で新たな仲間を待ち伏せ要員にさせていたのである……。




