251.岩と二刀流
しかし、腐ってもやはり勇者パーティーの一員として認められているライラはそのファイヤーボールをこの狭い通路の中でギリギリで回避する。
だが、その隙を狙ってルギーレが一気に彼女に斬りかかっていった。
「うおらっ!!」
「ふっふん、あま~い」
ライラはお得意の二刀流でそれをブロックし、反撃で素早い連続攻撃を繰り出す。
もちろんルギーレも簡単にやられるわけにはいかない。レイグラードの加護があるとはいえ、剣術はライラよりも劣る。
だが今回は後ろにジェバーもいることだし、何よりも大事なのはこののんびりとしていながら本性は最悪の女を止めることなのだ。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ!」
「くっ、ふっ!」
両手の剣を交互に突き出してけん制しながら攻撃するスタイルで、次第にルギーレを追い詰めにかかるライラだが、そこに援護のジェバーのウィンドカッターが迫る。
「くっ! ずる~い! 二対一なんてヒキョーよぉ!」
「卑怯? 何がだよ。お前らはやぐらに大勢の見張りを設置していたくせに、俺が仲間連れてくるのはいけねえってのかぁ!?」
そんなの一方的な言い分じゃねえかと言いながら、レイグラードをふるう。
そんなルギーレの攻撃に対して、ライラの攻撃は軽やかでリズミカルにスピードのあるものだ。
しかしその反面、小柄な体格が攻撃力不足を生んでしまっているのでルギーレが軽くブロックしただけで衝撃を受けているらしい。
それを見たルギーレは、スピードよりもパワーだと考えて一気に攻めていく。
「おら、おらおら、おら!!」
「くっ、ふっ、くっ!!」
ガキン、ガイン、ガアンと力強く叩きつけられるレイグラードの連続攻撃で、だんだん後ろへと下がりつつあるライラ。
さっさと脱出しなければならないのに、よりにもよってこんな出口の目の前でこの男に再会して戦うことになってしまうなんて思ってもみなかった。
もう時間がない。一気に決めなければならない。
それはライラだけではなく、ルギーレとジェバーも同じであった。
その二人の剣士の戦いを後ろで見ているジェバーは、ふとこの洞窟の中に目をやって一つの作戦を思いついた。
(うーん……リスクは高いですけど……やってみる価値はありますかねえ?)
下手をすればルギーレも巻き込んでしまう危険性があるが、やらないよりやってみればいいだろう。
今のところ、見る限りではルギーレ優勢ではあるものの相手だって歴戦の勇者の一人でもあるのだから。
そう考え、今度は先ほどよりも威力の大きなウィンドカッターを手の中に生み出して二人が戦っている方向に向かって投げつける。
「ふっ!!」
「……っ!?」
後ろからの異様な魔力を察知したルギーレは、とっさに岩壁に張り付いてそのウィンドカッターの直撃を回避する。
そしてルギーレと戦いながらもジェバーの動きにも気を配ていたライラもまた、岩壁に張り付いてギリギリでそれを回避。
二人によけられたウィンドカッターは斜め上に飛んでいき、天井の岩を削った。
「あ、危ないなあんた!!」
「ほんと~ね。それはこの役立たずさんに同意するわね~」
「ならもう一発どうぞ!!」
再び撃ち出されるウィンドカッターだが、今度は先ほどよりも斜め上を狙ってしまったらしく、容易に回避する二人。
「きゃはは、どこ狙ってんのぉ? へたくそ~!!」
「笑ってる暇あんのかよ!!」
「おーっと……危ないわねえ!」
その隙を狙って斬りかかるルギーレだが、瞬時にブロックしてカウンター攻撃を繰り出すライラ。
更にまたウィンドカッターを詠唱し、天井に向かってぶつけるジェバー。
するとその瞬間、戦う二人の頭上からピシピシと変な音が聞こえてきた。
(……ん?)
それに先に気が付いたのはルギーレだった。
レイグラードの加護で、岩壁に反響する声と剣のぶつかり合う音以外にもきちんと音を拾ったのだが、それはライラにとって大きな隙となった。
「いただき!」
「ぐぅ!?」
右肩に突き刺さるライラの剣先。
それを、リーチの違いでライラを前蹴りで蹴飛ばしながら引き抜くルギーレだったが、ジェバーは彼を助けて回復させるどころか別の魔術を詠唱していたのだ。
「ルギーレさん、逃げますよ!!」
「へ……?」
彼が最後に放ったのは、特大のファイヤーボール。
それを当てる先として選んだのは、先ほど変な音を立てている天井の岩だった。
そこに向かって当てられたファイヤーボールは思いっ切り天井を抉り、ひび割れさせ、最終的には大きな岩の塊をライラの上に向かって降り注ぐ結果にさせた。
「きゃ、きゃああああああああああっ!?」
先ほどルギーレに前蹴りをされたのもあり、咄嗟に二人とは反対方向に向かって駆け出すライラだったが、それが運の尽きとなった。
『五、四、三、二、一……自爆します』
「あっ……」
洞窟の奥から響いてくる轟音。後ろが天井の崩落によって阻まれてしまった逃げ場のない道。
ライラの最期は呆気ないものだった。




