248.戻ってきたあいつら
「陛下っ、レーヴァたちが戻ってきました!!」
「よし、これで形勢逆転といこう!!」
空からベルトニアに向かって飛んでくる無数のワイバーンの姿を目にして、ルイスが外に出てきたカルヴァルにいち早く報告する。
本当であれば彼は国王という立場なので、こうして外に出てきてはいけない人間。
しかし、このラーフィティアに追放されてくる前は隣国イディリークで王宮騎士団長を務めて将軍と呼ばれていたので、もともと戦う側の人間でもあるのだ。
(将軍は普通、前線には立たないって言われているんだが……戦場には出る必要があるんだよな)
もちろん彼一人をそのままにしておくわけにはいかない。
そばには騎士団長のローエンが控えているし、ルイスもこうして駆けつけてくれたので、護衛としては最強のメンツを揃えていると言える。
そんなカルヴァルの元に魔術通信が入ったのはその時だった。
『陛下、ジェバーですが今よろしいでしょうか?』
「おう、どうした?」
『ナーヴァイン副長から連絡のあった、濃すぎる魔力の出どころについて追跡をしてみましたところ、見慣れない地下への出入り口を発見しました!!』
「何だって、そりゃー本当か? どこで見つけた?」
まさかこの王都のどこかにそんな地下への出入り口を造られていたのか、と今まで気づかなかった自分を殴ってやりたい気持ちになったカルヴァルだが、ジェバーの報告は予想外のものだった。
『いえ、それがですねえ……王都近くの森の中だったんですよ』
「え? 森だぁ?」
『そうなんです。そこに大きな洞窟がありまして、中を調べてみたら王都の方に向かって地下トンネルが掘られています。出入り口に地下の見取り図が貼られているのを見ると、かなり大きな施設が存在しているようです』
しかしその先は魔力が濃すぎて気分が悪くなってしまうのと、何者かが出入りしたまだ新しい形跡があるので、そこでジェバーは引き返すことを決断した。
だが、これで地下で何が起こっているのか大体見当をつけることができるカルヴァル。
「わかった。だったらすぐに戻ってこい。こっちも連絡のあったレーヴァたちがワイバーンで戻ってきたからよぉ」
『わかりました。それではまた後で』
しかし、地下の異変はまだ終わっていなかったようである。
なぜならその通信を終えた直後、突然ベルトニアの中央広場にある大きな噴水が文字通り「吹っ飛んだ」のだから。
「何だ!?」
「ば、爆発ですっ!! 噴水が破壊されました!!」
「くっそー、このままじゃどんどん被害がでかくなるばっかりじゃねえか!!」
今度は何が吹き飛ぶのかさっぱり見当がつかないが、このまま王都にいたらまずい気がする。
カルヴァルは住民たちの避難が終了していることをルイスに確認し、自分たちも騎士団と一緒に避難しようかと考えていた矢先、自分に走り寄ってくる複数の人影を確認した。
「陛下、ご無事でしたか!!」
「レーヴァ! それからバーレンのティレフも……やぐらの破壊よくやってくれた。感謝するぞ!!」
しかし、そのレーヴァとティレフの表情に笑顔は見られなかった。
それどころか焦りの表情が張り付いている。
そしてティレフの口から恐ろしい話が出てきたのは次の瞬間だった。
「大変なんです! あの……ここの前の国王が戻ってきたんです!」
「えっ?」
「それは本当か?」
キョトンとするカルヴァルの横からそう聞くローエンに、ティレフは真剣な表情でうなずいた。
「ああ。俺もレーヴァと一緒に見たんだよ。あの二色の髪に無精髭ヅラは間違いない。奴が……暴君と呼ばれたヴァンリドがこの王都に戻ってきた!!」
「呼んだか?」
「っ!?」
一行の視界の範囲外から聞こえてきた、割と深みのあるその声に全員がそちらを向く。
そこには目に悪そうな色合いの服装と装備を身につけて、右手に握った抜き身のロングソードをブラブラと揺らしながらこちらに向かってくる、黒と金の二色の頭髪を持っている中年の戦士の姿があった。
そして一行の少し手前で立ち止まった彼は、ロングソードの切っ先をカルヴァルたちに向けながら声高にこう言い放ったのだ。
「ラーフィティアを……私の国を返してもらうぞ。この盗っ人め!!」
「はっ、暴君と呼ばれたお前が国を治めていること自体が間違いなんだよ。どうせまた自分はウハウハ豪遊して国民を苦しめるつもりなんだろうが、そんな奴に国を渡すわけにはいかないね」
カルヴァルはもちろん抵抗の意思を見せる。
そうくると思っていたヴァンリドは、スッと左手を軽く上げた。
「お呼びでしょうか、陛下」
「この者たちが、私たちの国を乗っ取ったという不届き者ですね?」
カルヴァルたちを挟み込むように現れたのは、ヴァンリドと同じく二色の髪を持つ男たちだった。
一人は茶と紫の髪に痩せ身の体躯が特徴的な若いシュッとした輪郭の男でおしまい手には短剣を持っている。
もう一人はカルヴァルやヴァンリドとさほど変わらないぐらいの中年の男で、緑と赤の二色の髪を持ち大柄な体躯をしているハルバード使いだった。




