244.女同士の戦い
向かい合う二人の女。
一人はやぐらを護っているチームのリーダーであり、かつてはルギーレの仲間であった勇者パーティーの一員であるベルタ・ミニャンブレス。
一人はルギーレの今の仲間であり、ここまでルギーレをサポートしたりサポートされたりしながらも一緒に世界中を旅してきたルディア・ロンバルト。
新旧ルギーレの仲間である二人が、ルギーレがレイグラードを使って周囲の敵を殲滅しにかかっている一方で、周囲の戦いの音を気にせずに会話を始める。
「まさかこんな形でまた出会うとはね……でも、あなたたちが何をしているのかは逐一こちらに報告が入ってきているのよ」
「へえ、そうなの。どーせあのニルスとかって男が何かしてるんでしょ。報告だけじゃなくて、私の仲間が壊しに行っているやぐらを設置したのもその人の指示だろうし、今までの改造生物とか強化人間とかもそうなんでしょ」
事実、ここには普通の人間だけでなく強化人間も守護に当てているようで、それだけベルタたちの本気が伝わってくる。
しかし、当のベルタはニルスそのものには余り興味がないようだ。
「そうだけど……あの人って何を考えているのかよくわからないわ」
「え?」
「だっていきなり現れて、私たちの世界征服に協力してくれるって言うんだもん。最初はうさん臭いって思ったんだけど、腕っぷしも強いし色々と計画を立ててくれるからマリユスもウィタカーもすっかり信用しちゃってね」
「えっ、あの……その男が嫌いなの?」
「嫌いっていうか、興味がわかないっていうか……少なくとも友達にはなれそうでなれないタイプね」
そうは言うものの、ベルタはニルスの立てているこのラーフィティア侵攻計画のリーダーに選ばれるだけの信頼を得ているらしい。
そんな彼女から、今度はルディアに向かって意味深な言葉が出てきた。
「ねえ……予想外の事態ってどう思う?」
「は? そりゃあ予想外の事態だから面食らうわよ。……まさかあなたたち、まだ何か企んでいるんじゃないでしょうね?」
「そうかもね。でも、あなたたちが思っているほどこの世の中は甘くないってことを、このラーフィティアで知ることになるわね」
そう断言したベルタに向かって、ルディアはもう我慢ができないと先制でエネルギーボールを投げつけた。
「おおっと……ふう、危ないわね。そっちがその気だったら始めましょうか。ここでまずあなたから死ぬことになるのよ!!」
ベルタのレイピアがうなり、風を切ってルディアに凶刃として襲いかかる。
だが、自分の身体に風の魔術を纏わせた上にレイグラードの加護もあるルディアは、いつもとは比べものにならないスピードと反射神経を身につけていた。
(見えるわ。避けられるわよ!!)
その相乗効果によって、高ランクの冒険者であるベルタのレイピアも見切って反撃が可能になった。
マリユスやベルタたちにとっては当たり前のスピードなのかもしれないが、魔術の研究や勉強を優先して余り身体を動かす機会がなかったルディアにとっては、まさに未知のスピードと言ってもいいだろう。
そして隙を見て反撃にかかるが、そこはやはり勇者の一人で歴戦の戦士でもあるベルタだからこそ、簡単には攻撃させてくれない。
「どうしたの? そんなものかしら?」
「まだまだあ!!」
レイピアを避けてエネルギーボールを撃ち出し、続けてファイヤーボールも撃ち出して仕留めようとするルディアに対して、ベルタは彼女の攻撃の仕方がわかってきていた。
やはり魔術師だけあって近接戦闘は得意ではないらしく、なかなか攻めきれていないようだ。
対する自分はレイピアの他に魔術も使う魔術剣士なので、こうなればそっちの魔術のお株を奪うぐらいに大きいのを撃ってやる。
その心のセリフはやがて現実になる。
「はあっ!!」
「っ!!」
もともと臆することなく突っ込んでいくタイプのベルタは、ルディアのリズムを掴んできたこともあって一気に反撃に出始める。
魔術を空撃ちしたルディアの腹に前蹴りを繰り出し、彼女が怯んだらその左肩を目掛けてレイピアを突き出した。
「ぐうっ!?」
「あらあら、痛いかしら? じゃあ今度は熱いのをあげるわ。ファイアーストーム!!」
その瞬間、薙ぎ払われたレイピアの衝撃波が巨大な炎の嵐となってルディアに襲いかかった。
「っ!?」
ルギーレからベルタのことを聞いていたとはいえ、実際にこうして魔術を発動されてしまうといやでもその威力と実力の高さがわかってしまう。
とっさに魔術防壁とバックステップで回避することに成功したものの、そこに無情にもレイピアの先端が突き刺さった。
「ぐふっ……」




