23.盗賊団の目的
そもそも傭兵のお前は最初から俺たちを狙っていたのか、とストレートに問いかけるルギーレに対し、トークスは迷いなく首を縦に振った。
「そうだ。俺たちの本当の目的はお前なんだ、ルギーレ」
「お、俺?」
「ああ。お前があの伝説の聖剣の持ち主に選ばれたというなら、俺たちのためにぜひ使ってほしいって思っていろいろと情報を集めていた」
冒険者の情報網ですぐに情報は集まったので、あとはこうして誘拐するチャンスをうかがっていたのだとトークスは言う。
それを聞き、ルギーレはトークスに自分たちが尾行されていたことを悟った。
「ちっ……いつから目をつけていたのかは知らねえけど、列車を襲って爆破までした上にこんな無理やり誘拐してきて知らない場所に縛って閉じ込めるやつらに、俺たちが協力するはずがねえだろ!」
協力してほしいんだったらそれなりの態度でアプローチして来いよと言うルギーレだが、たった一人をさらうために列車を爆破までしてしまうような連中はどこまでも卑怯であった。
「ほー、まだそんな口が利けるのか。だったらこの女がどうなってもいいってことだな?」
「は?」
「そのままの意味だよ。列車を襲ってお前をここまで連れてくる以外には、列車の連中から軍資金を調達するだけのはずだったんだ。だが、この女がお前の仲間だと知ってこれは使えそうだと思ってな」
ウィタカーがそう言いつつ、懐から大型のナイフを取り出す。
そしてそれを、この状況でもいまだに眠り続けているルディアの頬にピタピタと当ててルギーレを脅迫する。
「人質ってことかよ。……お前ら、どんな目的で俺を使おうとすんだよ?」
「そりゃあ一つしかねえだろ? お前の持っているその力を、俺たちが世界を征服するために使うに決まってんじゃねえかよ」
「ぶっ!?」
あまりにも壮大なことを言い出したウィタカーに、思わずルギーレは吹き出してしまった。
「何がおかしいんだよ?」
「は……いや、だって真顔でそんなことを言い出した奴は初めて見たぜ、俺も。世界を征服する? ただの盗賊団がか? お前らのほかにも仲間がいるんだろうけど、そんなの夢見すぎだろ。だいたい、世界征服なら俺なんかに頼らねえでお前らだけでやれよな。他人の手を借りないとできないような世界征服計画なんて、最初からやらなきゃいいじゃねえか」
そんな世界征服の計画なんてたかが知れてるぜ、とルギーレが最後の一言を言い終わったと同時に、彼の腹にウィタカーからの強烈な蹴りが叩き込まれた。
「ぐふぉ!?」
「口の利き方には気を付けろよ? お前の命もこの女の命も、今は俺たちの手の中にあるんだからな」
ウィタカーはそう言い、傍らに控えているトークスに顎で指示を出す。
心得た様子のトークスは懐に手を入れ、そこから地図を取り出した。
「な……なんだそれ?」
「城の見取り図だ。お前はここに忍び込んで、没収されたというあの剣を奪い返してくるんだ」
「お、俺にこれをやれってのか?」
「そうだ。顔見知りばかりいるはずだからそんなに難しくはないだろう?」
あの剣の話を聞いてから、いずれこの帝国の皇帝の耳にも剣の情報が手に入るであろうと見越していたトークスは、雇い主であるウィタカーと相談して城の内部に潜入するための手はずを整えていた。
そのために大金を積んで城の騎士団員を買収したのだから。
だが、そんな提案をされても当然ルギーレは聞くはずがなかった。
「嫌だね。せっかくあの剣と引き換えに無罪放免になったってーのに、そんなことをしたら今度は俺が処刑されちまうじゃねえか」
「その処刑を今ここでしてやってもいいんだぞ?」
煌めく閃光。
トークスの手が腰のロングソードの柄にかかったかと思った次の瞬間には、寸分の狂いもなくその刃がルギーレの首筋にピタリと当てられていた。
なんという素早い動きと正確さなのだろうか。
その実力の高さを垣間見ることができる動きにルギーレは思わず身震いをするものの、それでもこんな仕事の依頼を受けるほど腐ってはいないのだ。
「そんなんで俺を脅そうとしたってそうはいかねえぜ。俺はこれでも意志は固い方なんでね」
「へー、そうか。だったらお前じゃなくてこの女にいろいろと試してみりゃあ、さすがのお前も考えが変わるかもしれねえな?」
そう言いつつ、ウィタカーがいまだに眠ったままのルディアにジリジリと近寄っていく。
その様子を見て、ルギーレはふと違和感を思えた。
(おいちょっと待て、まさかルディアは寝てるんじゃなくて……)
死んでる?
先ほどからこの至近距離で押し問答が大声で繰り広げられている上に、ルギーレがすぐ隣にいるにもかかわらずピクリとも反応を見せないルディア。
さすがにこの様子はなんか変だと思い始めたルギーレだったが、それはどうやら杞憂に終わったらしい。
なぜなら、そのウィタカーの右手が彼女の服の胸元にかかった瞬間、いきなり動いたルディアの左手が彼の右手首をつかんだからだ。
それと同時に、強力な炎の魔術が無詠唱でウィタカーめがけて襲いかかった。




