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239.偵察の結果

「ベルタさん、この男はどうします?」

「まだ生かしておいて。この男は人質として存分に利用価値があるからね」


 うかつだった。自分の大きな失態だ。

 シュヴィスは偵察に来たはずだったのに、こうして見つかって敵に捕らえられてしまうなんて不甲斐なさと申し訳なさが心を支配する。

 そして自分の過信が招いた結果がこれなのだ、と袋叩きにされた挙句に武器である二本の短剣を奪われてしまい、魔術が使えないように妙な薬を注射されてしまった。


(身体がしびれている……くそ、これじゃあ魔術が使えたとしてもすぐに逃げ出すのは無理そうだな)


 乗ってきたワイバーンは撃ち落とされて殺されてしまい、脱出のための手段もなくなってしまった。

 現在彼が捕らえられているのは、ただ一つ残っている最後のやぐらである。

 偵察の結果、こうして囚われの身となってしまったシュヴィスだったがそれでもいくつかわかったことはあった。


(でも……この荷物置き場になっているテントの中に入れられる前に見た限りでは、特に敵の方に焦った様子は見られないんだよなぁ……)


 考えてみれば、これまでにラーフィティア王国の各地に設置している六つのやぐらのうち、すでに五つが破壊されてしまっているこの現実を踏まえるともっと敵に焦りが見えたりしていいはずである。

 しかし自分を撃ち落としてきたこの集団のリーダーである金髪のベルタ……ルギーレの昔の仲間だったというレイピア使いの女の表情には、焦りどころか余裕があるようにしか見えなかったと思い返すシュヴィス。


(目隠しされなかったのが不幸中の幸いか。見た感じでいろいろと状況を整理してみると、このやぐら周辺には今まで話で聞いてきた限りの中では最大規模の警備網が敷かれているみたいだな)


 バーレンとの国境にほど近く、ラーフィティアとイディリークとバーレンにまたがる巨大なティーカカン湖のある、このチアカトラン地方が最後のやぐらのある場所だけあって、敵もその辺りは最大の警備態勢で迎え撃つつもりなのだろう。

 しかしやはり、それにしては危機感が薄いようにも見える。


(俺を誘拐して人質にしたことで余裕が生まれたのか? それとも開き直ってもうどうにでもなっちまえって感じなのか?)


 いずれにしても余裕があるのはわかるので、どうにかしてこの偵察の結果をルギーレたちに伝えたいシュヴィスなのだが、武器と一緒に連絡用の魔晶石もベルタたちに取られてしまったのでそれも無理である。

 しかもベルタが、自分のそばでルギーレたちに連絡をしている最中にこのテントに連れてこられてしまったので、いったいルギーレたちと何を話しているのかもわからずじまいだった。


(俺を餌にして呼び出すつもりとしか思えないけどな。くそ……こうなったらどうにかして簀巻き状態のこのロープから脱出しないと……)


 後ろ手に縛られている状態で、地面の土にゴシゴシと腕をこすりつけてロープをほどこうとするが、しびれている腕では満足に動くこともできない。

 関節を外して抜け出そうかとも思ったが、よく考えてみれば抜け出せたとしてもテントの外には見張りがいるので、こんな身体ではまた捕まって縛られてしまうのがオチであることに気が付いた。


(すまねえ……俺が出しゃばったばっかりに……)


 こんなことならルギーレたちと一緒にここまで来ればよかった。

 そんな後悔で頭がいっぱいのシュヴィスなど知る由もないベルタたちは、これから起こる楽しいことについて話していた。


「ふふふ……まあ、このやぐらがどうなろうと知ったこっちゃないのよね」


 そう、このやぐらを破壊されようが破壊されまいが、王都ベルトニアは壊滅する。

 事前にベルトニアにリュドやライラたちが向かっているのだし、やぐらにまつわる重要な話を事前に聞かされてからこちらまでやってきたベルタにとっては、このやぐらを守り切れなくても守り抜くことができても、どっちでも結果は変わらないのだと知っていた。


(まあ、せいぜいこんなアホな仲間を持ったことを後悔することね。そして後悔するのはそれだけじゃなくて、ノコノコとここまでやってきてあの男を助け出した結果、この国が壊滅した……っていうのも後悔するのね!)


 魔物に襲われているベルトニアを助けに向かうのと、ここまで来てやぐらを破壊することの二つを同時にこなすのは無理な話だ。

 なにせ、ここでやぐらを護るのはイディリークで活躍してくれた強化人間たち。

 その人間たちが足止めをしてくれている間に、王都は跡形もなく壊滅するであろう。


(ルギーレが役立たずから、ラーフィティアを滅ぼした元凶になるのをこの目でじっくりと見させてもらうわよ。だって、向こうはまだこのやぐらに隠された秘密を知らないんだからね!)

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