238.ワイバーンの便利さ
「うちのレルトインはというと、ベルトニアで魔物討伐をしているらしい」
「今!?」
「今もだ。つまりそっちが言っていることと僕の言った内容が一致しているみたいだな」
ということでレーヴァと一緒に南南東のやぐらまで向かい、そこで最後のやぐらを破壊して全員でベルトニアに向かえばそれですべて終わりのはずだ。
その前に六つ目のやぐらでレルトインと合流し、一気に叩き潰すのが目的でもある。
「なんにせよ、増援を出してくれるのは非常に嬉しいです。レルトイン団長はお一人ではなく、部下の方々と一緒にワイバーンを使って来られているんですよね?」
「ああ、そう言ってたよ。だからシュヴィスと同じく早めに合流できると思う」
ワイバーンを使っての移動はあるにはあるのだが、一般人にはなかなか浸透していない。
各国の騎士団でも国によって使っているところもあれば使っていないなど、採用のバラつきも多い。
騎乗用のワイバーンというものは育成に時間がかかるうえに、餌代だって馬鹿にならないし飼育のための場所だって確保しなければならないので、自然に恵まれている広大なバーレンの土地ならその育成が可能だ。
「それを考えるとさあ、エスヴェテレスの方から来た君はどうしてワイバーンで来たんだ?」
「え? ああ……やっぱり援軍として駆けつけるなら一秒でも早い方がいいだろうって思って。そうしたらディレーディ陛下とヴァンイスト様がワイバーンを貸してくれたんだ」
飼育する場所がなかなかないと言っても、例えば敵陣の偵察用にワイバーンを保有していたりするのは各国の騎士団では割と当たり前である。
といってもそれぞれの騎士団に共通するメインの戦場は地上なので、やはり馬や列車を使った移動の方が圧倒的に需要がある。
そんな話をしながら、まずは今回のやぐらに砲撃されて命を落とした隊員たちの弔いを終え、最後のやぐらに向かって進み始める。
するとその出発前に、シュヴィスがこんなことを言い出したのだ。
「俺はこうして一人しかいないからさ、良かったら先に現地に向かって偵察してこようか?」
「え、いいんですか?」
「いいよ全然。そもそも引き連れて歩くのはこいつも鈍っちまうだろうしさ、今回みたいに予想外のでかい罠とかあったりしたらまずいだろ?」
「それもそうですね。それではお願いできますか?」
「任せとけ。何かあったら連絡するよ」
レーヴァにお願いされたシュヴィスは、先にワイバーンにまたがって大空へと飛び立っていった。
連絡があったレルトインは部下を引き連れてきているのだが、先に空を飛んでやってきた彼はやはりエスヴェテレスの被害が大きかったこともあって、どうしても人員を割くことができず一人で来ることしかできなかったのだという。
しかし、もしこのやぐらに大勢で来ていたらエスヴェテレスの団員達も今回死亡してしまったレーヴァの部下たちと同じ運命をたどっていたかもしれない。
それに彼のワイバーンがあったからこそ、シュソンと協力してやぐらを上から攻撃して破壊できたわけなので、少人数が決して悪いというわけでもない。
そのことを話しながら進んでいた一行だが、やはり気になるのは最後のやぐらについてだ。
「僕らにとっては偵察してくれるのはありがたいね。これもワイバーンの性能があってこそかな?」
「かもしれませんね。しかし、私はこの最後のやぐらに何か不吉な予感がするんです」
「え?」
予知夢を見た事とは関係なしに、最後のやぐらに向かうにつれてこのままではいけないような気がするルディア。
それが何かはわからないが、やっぱり今回のやぐらと同じくデストラップがあってもおかしくない。
だからこそシュヴィスの偵察報告を待つしかなかったが、その日の夜にシュヴィスからの連絡が入ったのだ。
「シュヴィスさん? どうなってました?」
「何かわかりましたか?」
ルギーレとルディアのもとにかかってきた通信。
それを心待ちにしていた一行だったが、その相手はシュヴィスではなかったのだ。
『違うわよ、私はシュヴィスとやらじゃないわ』
「え……?」
「ちょ、ちょっと、あなたは誰ですか!?」
シュヴィスからの連絡ではない。
じゃあ今まで出会ってきた仲間の誰かか? と考えたがどうやらそれも違ったらしく、二人をはじめとする一行が驚きを隠せない人物からの連絡だったのだ。
『誰ですかって……私の声を忘れたとは言わせないわよ、この役立たず』
「……おい、もしかしてお前……ベルタかぁ!?」
『当たり。この前は運悪くイディリークの皇帝を取り逃がしちゃったけど、いつか絶対に殺してやるから。まぁ、その前にこのシュヴィスって金髪の人が死ぬのが先かもしれないわね? あはははは……』




