236.死のやぐらを攻略せよ!
「不用意に近づくと僕たちも撃たれるよ!!」
「だったらもっと高度を上げるぞ!!」
シュヴィスが操縦、シュソンが後ろから斧を使って狙うという体勢でやぐらの周囲を飛ぶワイバーン。
モタモタしていると犠牲が増えるだけなので、なるべくゆっくり飛んでもらって一気に破壊したいところである。
本来であればワイバーンでやぐらに突撃して、そのまま体当たりで破壊してしまいたいのだが、自分たちまで弾丸の雨にさらされるわけにはいかない。
そこでまずやぐらのてっぺんから攻める二人。
いくらやぐらという大きな建造物だからって、人の手で造ったものが人の手で壊せないわけがない。
そう考えるシュソンは自分のロングバトルアックスに魔力を込めて、振り下ろす時の破壊力を極限まで高める。
そしてワイバーンの上で仁王立ちになってバランスを取り、直方体のやぐらのてっぺんに狙いを定めた。
「よし、近づいてくれ。まず僕がてっぺんにダメージを与えたら、魔術であの無数の砲口を破壊してくれ!!」
「魔術当たったらごめんな!」
「その時はその時だ。今は手早く片付けるぞ!」
身体中を風圧が襲うが、足腰を中心に力を込めて落とされないように踏ん張りつつ、狙いを定めて斧を振り上げる。
そしてタイミングが合ったその瞬間、膝のバネを使ってやぐらに向かって飛ぶ。
やぐらの砲口が下にしか向いていなかったのが、シュソンにとって最大の幸運だった。
彼は無言の気合いとともに頭上から斧を両手で全力で叩きつけた。
ズガンと鈍い音がして、続けてジーンと両手に伝わって来る鈍い衝撃に顔をしかめつつも、何とかダメージを与えることには成功したらしい。
「くぅー……いってえ……けど今だ!!」
シュソンがワイバーンに向かって叫ぶころには、すでにシュヴィスもその手の中に特大のエネルギーボールを生み出していた。
巧みに片手でワイバーンの手綱を握って巨体をコントロールしつつ、右手に生み出したそのエネルギーボールを大きく振りかぶってやぐらに投擲。
シュルシュルと音を立てながら飛んで行ったエネルギーボールは、そのまま轟音を立ててやぐらに取り付けてある無数の砲口に直撃した。
その瞬間、強大な魔力をぶつけられたことによって砲口が破壊されて爆発し始める。
それで終わりかと思いきや、土台から崩さなければやぐらを破壊したことにならないし、砲口はまだ他の三面に残ったままの状態だ。
(僕も続くぞ!!)
このままやぐらの上で黙ったままというのは気が引けるシュソンは、先ほど自分がワイバーンからこの上に飛び移った時と同じように、再び自慢のバトルアックスに魔力を込めて振り下ろす。
その目標はまだ地上部隊を無差別に砲撃している、自分のすぐ下に見える砲口だった。
「ふおりゃああっ!!」
「せいっ!!」
シュソンのバトルアックスが砲口に叩きつけられ、これ以上の攻撃を許さないように破壊される。
シュヴィスのエネルギーボールがやぐらに当たり、その巨体を削り取ってバランスを崩させる。
(早く合流できるようにってディレーディ陛下がワイバーンを用意してくださったことが、まさかこんな形でも役に立つなんて……)
本当に物事は何がどう繋がっているかわからないものである。
そして二人の騎士団員の尽力によって砲撃は止みつつあるものの、やぐらだけをちょうど浮島のように囲んでいる落とし穴のせいで、やぐらの根元が上手く攻撃できない地上部隊の面々。
「私がやるわ!!」
ルディアもワイバーンに乗っているシュヴィスと同じく、エネルギーボールを生み出してそれをやぐらの根元に向かって投げつける。
ルギーレとレーヴァは負傷した隊員たちを落とし穴から引き上げたり、安全な場所まで肩を貸したりして避難させるサポート役に徹していた。
やはり餅は餅屋というべきか、相手に合わせて攻撃する味方も変えた方がいいのだろうとこの時思い知ったルギーレの視線の先には、砲口を全て破壊してワイバーンにシュソンを再び乗せたシュヴィスと、地上から攻撃していたルディアの手によって、やぐらが倒壊していく様子があった。
「お、終わった……」
ようやくこれで五つ目のやぐらを破壊してホッと一息つくシュソンだが、そんな彼を見たレーヴァは首を横に振った。
「いいえ、まだ終わっていません。このやぐらで命を落とした隊員たちを弔わなければなりません」
「あ、そうか……」
不運にも狙撃されてしまった隊員たちの亡骸が、まだ落とし穴の中に大量に残っている。
なのでその隊員たちを弔ってから最後のやぐらへと向かうべく、生き残った隊員たちとルギーレたちで落とし穴を墓穴代わりにするべく、周辺の土を掘り起こして埋めていく。
それから負傷した隊員も大勢いるので、その治療もしなければならない。
魔術が使えるルディアとシュヴィスで治療にまわり、残りのメンバーはひたすら穴を埋める作業が続いていたその時、レーヴァの魔晶石に通信が入った。




