233.あっ、出た
「久しぶりだな、ルギーレにルディア。それからええと……あんたがバーレンのシュソンだな?」
「そうだよ。よろしく。ところでこれからの流れについて説明した方がいいかな?」
シュソンと握手を交わしたシュヴィスだが、説明なら必要ない。
エスヴェテレスですでにこちらから魔術通信でいろいろと連絡をもらっているのもあって、逐一ルギーレやルディアの行動を把握できているからであった。
それを話すと、なら話は早いとシュソンはうなずいて再び武器の手入れを始めることにする。
「とりあえずメシにしましょう。腹が減っては戦はできませんから」
「そうだな。じゃあメシを食いながら、今までの話をあんたたち三人から直で聞いてみたいもんだぜ」
通信の内容では語りきれなかったこともあるだろうし、とシュヴィスが仲間に加わるにあたり、三人はまずレイグラードの刃の付け根の部分にある奇妙な形のくぼみについて話し始めた。
しかし、それについてはシュヴィスもわからないらしい。
「だったらさあ、伝説のドラゴンさんに聞いてきたらいいんじゃないのかな」
「ああ、その手がありましたね!」
ポン、と手を打つルディアだがそこで疑問が浮かぶ。
そういえば、この国に来てから人語を話すドラゴンに出会っていない。
「確かファルスとイディリークをセルフォンさんが守護していて、青いドラゴンさんがバーレンとヴィルトディンって言っていたわね。じゃあこのラーフィティアにも守護しているドラゴンがいるってことかしら?」
「そうだと思うけど……俺に聞かないでセルフォンさんに聞いてみろよ」
ルギーレにそう促されたルディアは、いったん食事を中断してセルフォンに魔術通信を入れてみる。
通信用の魔晶石はイディリークで補給してもらったのでまだ山ほど残っているのだが、それも相手が通信に応答してくれなければ意味がないただの石ころだ。
「あれ……出てくれないわね。もしかしたら患者さんを診察中かもしれないわ」
「じゃあ俺がシュヴィリスさんに通信を入れてみるよ」
シュヴィスだのシュヴィリスだの似たような名前の知り合いが多いなあと心の中で気がつきながら、画家の仕事をしているかもしれない青いドラゴンに連絡を入れる。
するとこっちは何と通信に出てくれたので、通信を入れた本人が一番驚きを隠せない。
『……はい』
「あっ、出た」
『出たって何だよ。いたんだよさっきからずっと。君はルギーレかな。一体どうしたのさ?』
「ええと、それがですね……」
ルギーレはシュヴィリスにレイグラードのことを話してみる。
すると、その変なくぼみについて意味深な答えが返ってきた。
『ん~……? あれ、ちょっと待って。それって何か聞いたことがあるかもしれない』
「本当ですか!?」
『うん。でも詳しくは知らないんだよねえ。僕って引きこもりのドラゴンだからさあ、もっと世の中知ってるドラゴンに聞いてみたら?』
「さっきセルフォンさんに連絡したんですけど、つながらなかったんですよ」
『あーそうなの? でもあのドラゴンも何だかんだで忙しいみたいだしい。君たちは今どこにいるんだっけ? ラーフィティアだっけ?』
「そうです。今はまたあいつらと争ってまして」
『うん、それは聞いてるよ。でもそっちだったら白いのがいるんじゃないの?』
「白いの?」
この会話の流れからすると、シュヴィリスが言っているのはおそらく「白いドラゴン」のことだろう。
そのルギーレの予想は当たっていた。
『そうだよ。だってラーフィティアを看視しているのはその白いのだもん。お店が休みの日しかそっちに行けないみたいだけど、会える時に会ってみたら?』
「え……お店?」
『うんそうそう。白いドラゴンはねえ、人間の姿の時にはファルス帝国で料理人をやっているんだよ。ほらその、世を忍ぶ仮の姿って奴かな。でも今はどうなんだろうねえ。季節もののデザートの開発をしてるって言ってたからなかなか来られないかも』
とにかく、その白いドラゴンに会えればレイグラードのくぼみのこともわかるかもしれない。
しかしシュヴィリスいわく、それには条件があるのだという。
『それにさあ、白いドラゴンは僕たちの上を行く存在なんだよ。まずは僕、セルフォン、それからエスヴェテレスかシュアにいる赤いの、そしてバーレンかヴィーンラディにいる緑のに会ってきなよ。その四匹すべてと面識がないと会ってくれないと思う』
「何ですか、そのルール……」
『うーん、まあ僕たちドラゴンの中にある独自の掟みたいなものかなあ。やっぱりほら、この世界の看視者だからそうそう簡単に人間に会っちゃいけないんだよ』
だから、レイグラードを持っている君は特別な存在なんだよと最後に言われて通信が終了した。
セルフォンにはシュヴィリスから連絡を入れておいてくれるらしいので、こうなったらその白いドラゴンに会いに行くのも旅の目的の一つにしよう、とキャンプを張る一行で誓い合った。




