232.思わぬ再会
『実はだな、そっちに一人こちらから人を送っているんだ』
「えっ、誰ですか?」
『シュヴィスの手が空いたから、手伝えることはないかと思って。ラーフィティアの王都に大人数を向かわせていると聞いたから、やぐらを破壊する方がかなり減ったなら手助けになるかと』
「あ、はい……ありがとうございます」
ここにきてまさかのディレーディからの手助けはいいのだが、問題はどこで合流するかである。
正直にいえばエスヴェテレスからだとかなり距離があるので時間もかかると思うのだが、ディレーディはきちんとそこも考えていた。
「ワイバーンに乗せて行かせるって言われてもなあ……結構な距離がありますよね?」
「確かにそうだね。でも、空を飛んでくることができるなら馬よりも列車よりも確実に早いだろうね」
「確かにそうなんですけど、増援っていうのがまさかのシュヴィスさん一人だけなんですよ」
「そこは私も気になったね」
通信も終わってカッポカッポと馬を進ませる三人は、このタイミングでなぜワイバーンに乗せてまで増援を? という疑問が拭いきれないでいた。
きっと何かしらの考えがあってのことなのだろうが、その理由を問う前に急な仕事が入ったというので通信を切られてしまったので、詳しくはこっちにやってきたシュヴィスと話すしかないだろう。
自分たちがいるのは魔物が少ない地方なのでこの辺りで合流するのは別に構わないのだが、やはり前の国王がいなくなって放置されていたからか魔物駆除を少ししないといけないらしい。
「ルディア、気をつけろ!」
「ルギーレもね!!」
「ほら、また来るぞ!!」
三人は魔物退治をしながら五番目のやぐらを目指して進む。
このラーフィティアにおける数々の戦いを通じて、いつのまにか打ち解けたシュソンが二人の指導役として先導する。
バーレンも広大な領土の中にたくさんの自然があるので、その分魔物の数も多く騎士団が魔物の討伐に赴くことが頻繁だ。
その分、シュソンも魔物の討伐経験は必然的に二人と比べて圧倒的に多いので、騎士団の隊長職というリーダーシップも手伝って的確に魔物の対処法を伝える。
伊達に騎士団の遠征において、小型から大型まで数えきれないほどの魔物を討伐してきたわけではないのだし、魔物の知識もかなり豊富である。
「よし、この辺りの魔物はだいぶ倒したみたいだから少し休憩しよう」
「それじゃあ昼食の準備をしますね」
いそいそとキャンプを張って食事の準備を始めるルディアとルギーレだが、さすがに魔物の数はバーレンよりも多いので、武器の手入れは怠らないシュソン。
二人が料理に集中している間に、彼はレイグラードの手入れも一緒にしてあげると言い出したので、ルギーレはその言葉に甘えてシュソンに任せることにしたのだが……。
(ん? 何だこれは……)
レイグラードの柄についている二つの窪み以外に、もう一つだけ奇妙な形の穴が開いていることに気がついた。
それは刃の付け根の部分に隠れるようにして開けられているものであり、明らかに人工的に加工された跡があるので、長いこと置きっぱなしになっていたからとか戦いの中で欠けてしまったとかいうものではないらしい。
「え? この加工の跡は俺も初めて気が付きましたよ」
「そうなのか? まあ確かに、よく見ないとこれは普通に手入れしていても気にしない場所だろうな」
「ここにも何かがはまるのかしら?」
まだニルスたちに取られたままのもう一つの宝玉の他に、はめ込むことができるアイテムがあるのであれば、それを探すこともこれから先の旅路で必要になってくるだろう。
だが今はそれは後回しで、次のやぐらを壊さなければならないことを考えていたその矢先、バサバサと翼がはためく音が三人の耳に聞こえてきた。
「ん?」
「え……あ、あそこよ!!」
「ワイバーンか!!」
料理をしている最中に飛来した一匹のワイバーン。
ルディアが指差した時点では、その背中に人が乗っているかどうかは把握できない。
もしかすると、肉がメインとなっているこの料理の匂いや音につられてやってきた野生のワイバーンかもしれないので、三人は料理と手入れを中断して戦闘配備をとる。
「敵だったら一気に倒すよ。それでいいね?」
「はい」
身構えて武器を構える三人だが、その灰色のワイバーンはそのまま三人の上空を通り過ぎて、大きく旋回して戻ってきた。
そしてキャンプからやや離れた場所でゆっくりと着陸し、背中に人間が乗っているのを確認することができる。
もしかして……と思っているルギーレとルディアのもとに、その下りてきたワイバーンの操縦士が姿を見せる。
「久しぶりだね。といってもちょくちょく連絡くれてたから余りそんな感じはしないけど」
「そうですね。お久しぶりですシュヴィスさん」
「結構ここに来るまで早かったですね」
それは事前にディレーディが連絡をくれていた、エスヴェテレス帝国騎士団の一人であるシュヴィスだったのだ。
やはり空を飛ぶとここまで来るのにかなりの時間短縮になるらしいが、問題はこれから先であった。




