231.アズカジュク地方と十二のパラディン部隊
ラーフィティアの南東、アズカジュク地方。
その地方全体が魔物の巣窟といっても過言ではないレベルで魔物がうようよ闊歩しているネペック地方と比べ、こちらのアズカジュク地方は対照的といえる。
なぜなら、この地方にはバーレンから続いている川が通っているためである。
「こっちの地方はバーレンからよく人が来るんだよ」
「そうなんですか?」
「そうそう。この川を通ってゆっくりのんびりベルトニアに向かう人が多いみたいでね。まあ、僕は騎士団の遠征でこっち方面に来たことがあるってだけで、十二の騎士団がいるラーフィティアとは進んで自分から関わりたいって思ったことがなかったから、無理に来なくてよかったのかもね」
「十二の騎士団?」
何だかまた聞きなれない単語が出てきたなあと思うルギーレの疑問に対して、シュソンは一度右手で制して話を続ける。
「まあまあ、その話はまた後でするよ。そんな感じで人が多く来るものだから、前のラーフィティアとしても割と観光地として利用していたらしくてね。魔物の駆除が徹底的に行われていたんだよ」
「うん、それなら納得です」
一緒に街道を進むルディアも、シュソンの話に納得する。
そして先ほどの「十二の騎士団」についての話も触れられる。
「じゃあさっきの騎士団の話なんだけど、君たちも僕も、これまでの戦いの中で一度は戦っているよ」
「「そうなんですか?」」
二人の声が見事にシンクロしたのを見つつ、シュソンはうなずいて続ける。
「ああ、そうだよ。というか君たちも自分で覚えていないかい? 黒ずくめの連中の他にいた、色とりどりのコートを着た連中のこと」
「あ……」
「それにベルトニアでも海沿いの住居の話に絡めて少しだけ説明があったと思うんだけど、もう忘れちゃったのかい?」
「あーすんません、それはちょっといろいろなことがありすぎて忘れてました」
とりあえず、その十二の騎士団が何なのかをざっくりと説明すると、前の国王であったヴァンリドは騎士団に十二の部隊を設立し、四地区に分けて魔物の討伐に力を注いでいた。
それが十二の騎士団であり、団によってそれぞれ団員たちが使う武器が違い、制服の色でどの騎士団に所属しているのかが一目でわかるようになっていたのだ。
「僕が聞いた限りでは黒の十二から始まって白の十一、黄色が十、赤の九に青の八、紫が七で黄緑が六、ダークグレーの五と水色の四、トップスリーでピンクの三に茶色の二にオレンジの一。この十二の騎士団はそれぞれ「パラディン部隊」と呼ばれていて、数字が小さくなればなるほどエリートだった記憶があるよ」
でも、とシュソンはまだその上の存在を言う。
「その上にはもう一つ、「特務騎士団」っていうものが存在していたんだ」
「全部で十三ってことですか?」
「そうなんだけど……まあ、その団だけは別格らしいんだよ。いうなればイディリークの近衛騎士団とか、バーレンの主力である魔術剣士隊とか、ファルスの両翼騎士団って言った方が早いかな」
特務騎士団がいわゆる近衛騎士団の地位に当たるらしく、十二の騎士団……パラディン部隊が各地に散らばって魔物討伐をしていたので、敵の中にもその色とりどりの制服姿の男女がいたことでヴァンリドたちが戻ってきているのだと確信していたシュソン。
「だから結局、このラーフィティア王国内部の問題を片付けるためにはヴァンリドとの勝負は避けて通れないかもしれないね」
「そしてそのヴァンリドが、あのニルスと手を組んでいる……?」
「その可能性は十分にあるね。だってあの海竜もどきだって、黒ずくめのバーサークグラップルだって出てきたんだから、そのニルスという男がバックにいない方が不自然な気もするよ」
ニルスと面識こそないシュソンだが、今までの話を聞いている限りでは裏で手を組んでいないとおかしいとにらんでいる。
一体そのヴァンリドはどこで出てくるのか?
もしかしたらこの先にある、五番目のやぐらの番人として立ちはだかる展開になっていたりもしないだろうか?
そう考えながら馬を使って進んでいた三人だったが、ふとルギーレの持っている魔晶石に通信が入った。
「……あれ、通信?」
「誰から?」
「さあ? とりあえず出てみなきゃな」
こんな時にいったい誰だ? と馬を進ませながらその通信に応答するルギーレだが、それはまさかの相手だったのだ。
「はい、ルギーレですけど」
『ルギーレか?』
「あれ……ディレーディ陛下!?」
なんと、エスヴェテレスのディレーディから直に通信が入ったので驚きを隠せないルギーレ。
どこかへ向かったり変わったことがあったりしたら、当初の約束通りにこまめに連絡はしているのだが、誰かを通しての報告になるので彼に直接伝えられることはめったになかった。
やはり皇帝という立場ともなれば、国をまとめたり一連の事件の後処理に追われたりで出られないのはいいのだが、まさかディレーディから直接通信が来るとは思ってもみなかった。
一国の皇帝直々にいったい何の用なのだろうか? とルギーレのみならず、ルディアもシュソンもその通信の内容に耳を傾け始めた。




