229.同時進行
ベルトニアが突然、地下から出てきた魔物に襲われている。
ルギーレたちがその知らせを聞いたのは、丁度山を下りて一番近くにある村で休んでいるころだった。
「地下から出てきた魔物……!?」
「こんなのは初めてのパターンだけど、もともとこのラーフィティアの王都にはそんな魔物を地下で飼っていた人がいたとかってことかしら?」
「いや、例のニルスっていうのが地下に魔物を放ったっていうパターンも考えられるだろう」
とにかくまた、やぐらを壊したらベルトニアで異変が起こってしまった。
シャブティがその連絡を受けたのをきっかけに、本来であればすぐに全員でベルトニアに向かうべきなのであろうが、その連絡を受けたすぐ後に今度は別の場所から緊急の連絡が飛び込んできたのである。
「何だよこんな時に誰だ……って、レーヴァ?」
『ああ、シャブティか?』
魔晶石の向こうから聞こえてきたのは、少なくともルギーレとルディアは聞いたことのない声である。
その声の主がとんでもないことを言い出したのだ。
「どうしたんだよ? 俺たち手が離せねえんだけど……」
『こっちもそれどころじゃなくなったんだ。ほら、君の方から私の方に連絡があっただろう? やぐらの話』
「ああ、それだったらこっちで四つ目の奴を破壊したばっかりだぜ。何か進展があったのか?」
『そうだ。五つ目のやぐらをとうとう見つけたんだが、魔術防壁で阻まれてしまって近づけない状況になっているんだ。人の気配が全くしないのもその防壁があってのことだろう』
だから攻めあぐねているという、レーヴァという男からの通信にシャブティはうーんと腕を組んで考える。
そして彼はこう考えた。
「……なあ、すまねえけど五つ目のやぐらには俺たちは行けねえ。王都からの緊急連絡って入ってねえか?」
『ああ、それなら今しがた来たんだ。魔物が地下から現れて大苦戦しているって』
「それじゃあさ……ちょっとこっちで相談してからまた通信を入れなおす。待っててくれ。すぐだから」
そう言っていったん通信を切り、今の会話を聞いていた他のメンバーたちに相談を持ち掛けるシャブティ。
「……ってことなんだけどさ、五つ目の方には俺たち以外で行ってくれねえか?」
「ああ、話は聞いた。しかし苦戦しているのだろう?」
「そうなんだよ。レーヴァの奴がどうすんのかわからねえけど、少なくとも向こうも向こうでどうするか決めかねているみてえだし……その、こっちからも援軍として何人か王都についてきてほしいんだよ」
ローレンを筆頭に腕の立つ人間ばかりが揃っているパーティーではあるが、王都の危機となれば何か良くないことが起こっているに違いない。
そう、ルディアが予知夢で見たという内容のように。
それを踏まえて色々と話し合った結果、王都にはイディリークの三人と傭兵の二人が駆けつけることになった。
つまりやぐらに向かうのはルギーレとルディア、そしてシュソンだけになったのだ。
「イディリークに騎士団を派遣してもらっている以上、その借りは返さねばならないだろう」
「いやちょっと待ってくださいよ。皆さんだってイディリークの人間でしょ。特にローレンさんは近衛騎士団長ですよ?」
そんな上の立場にある人間が、わざわざ他国の戦場の前線に赴かなくても……とルギーレは心配を隠せないが、そこにはローレンなりの考えがあった。
「確かに立場が逆だったら、私も君と同じことを言うだろう。しかし私とカルヴァルは、最終的にはこんな関係になってしまったが、イディリークに仕えていた仲間だというのは一緒なんだ。それに……私たちがそう簡単に負けるわけがないだろう?」
伊達に近衛騎士団の団長や王宮騎士団の副団長、兵士部隊の副総隊長の座にいるわけじゃないんだし、見知った人間同士だから全く見ず知らずの味方と戦うよりはすぐにカタがつくはずである。
ローレンにそう言われてしまえば、ルギーレもルディアももう止められない。
「……わかりました。ですが気を付けてください。私が見た予知夢の内容が鮮明でしたから、何かしらの罠がまだ仕掛けられている可能性もあります」
「ああ、心しておこう。忠告感謝する」
今の時点で一気に五人も、そして追加でシャブティとその部下たちがパーティーから抜けてしまうのはきついものがあるが、代わりに五つ目のやぐらの方で一緒にレーヴァという男が戦ってくれるというので、三人はそのやぐらの詳しい場所を教えてもらって五人と別れた。
次に目指すは南東だ。




