227.大爆発
ローレンはこんな恐ろしい生物兵器と戦ったことはなかったのだが、ここに来るまでの間にルディアから海竜もどきの話を聞いていたし、バーレンで襲撃してきた生物兵器のワイバーンの恐ろしさも耳にしていた。
しかしいざそれを目の前にして戦うとなるとまた話は別である。
それでもここまで回り込めたローレンは、恐らくどこかに中に入るための出入り口があるのだろうと推測して、素早い動きでまず尻尾を伝って背中の部分に走り乗った。
(何かあるはずだ! そうでなければ中から動かせるはずがないからな!)
きっとある。絶対にある。その考えは当たっていた。
首の後ろの方に金属製の取っ手がつけられており、それを引っ張ってみれば中に続く道ができるだろう……と思っていたのだが、中からロックがかけられてしまっているらしく開けることができない。
仕方がないので、ローレンは自慢のハルバードを使ってその縦長の楕円形の出入り口を破壊して、強引に中に入り込んだ。
「ぬん!」
「ぐあああっ!!」
そして思った通り操縦していた敵の男をハルバードで一突きにして絶命させ、操縦権を握ったローレンだったが複雑そうな機械で何が何だかさっぱりわからない。
これは何をどうすれば止まってくれるのかわからないのだ。
(何だこれは……どうすればいいのだ?)
キョロキョロと操縦席内部を見渡して、とりあえず目についた一番大きくて目立っている赤いスイッチを押してみると、シューン……と全ての動作が止まる音がした。
(と……止まっ……た?)
止まってくれた。これでこの謎の改造生物兵器の動作が停止してくれたので、ホ~ッと息を吐いて一安心したローレン視界がその瞬間、急激にぶれた。
(ん!?)
心の中で驚いた時には、自分がすでに海竜もどきのそとに操縦席の椅子ごと放り出されていることに気が付いた。
ぐるりと反転する視界。
しかも空高く舞い上がって椅子から身体が離れてしまい、何もできないままそばにある木の上に落下してしまった。
「ぬ、おおおおおおおっ!?」
幸いにもその木の葉や枝がクッションとなってくれたおかげで、大したケガもせずに生還したローレンだったが、次の瞬間飛び出したことよりも大きなショックがローレンを襲う。
『緊急自爆ボタンが押されました。この機体はこれから十秒後に自爆いたします。即座に離れてください』
「え?」
「は……自爆!?」
機械から発せられる、非常に淡々とした女の声を聞いたのはローレンだけではなく、周辺にいたルギーレたちも同じだった。
そして三秒後には、一目散に海竜もどきに背中を向けて走り出していた。
「に、逃げろおおおおおおっ!!」
「うわああああああああっ!!」
ローレンもすぐさま身を起こして木から飛び降り、ルギーレたちの後に続いて狭い山道を駆け下っていく。
その数秒後、後ろでカッと強い光が発せられたかと思うと、ワンテンポ置いて大きな地揺れの衝撃と熱風が一行に襲い掛かった。
「うわ……!!」
後ろを振り返って見上げたルギーレが見たものは、かなり下からでもわかるほどに威力が大きな大爆発が引き起こされたとわかるぐらいの火柱と黒煙。
しかもドカン、ガシャン、バリン、バキバキと異様な音が聞こえてくることと、上の方しか見えていないやぐらが傾いて崩れていくことから、海竜もどきの自爆がやぐらも巻き込んで倒壊させたのだとわかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……あ、あの……ローレンさん、いったい何したんですか!?」
「いや、私はただ、あの海竜の操縦席の中にある赤い突起物を押しただけだったんだが……」
「それですよ! きっとそれですよ!!」
いずれにせよ、これで四つ目のやぐらを破壊することに成功したルギーレ一行だったが、このまま放っておけば爆発によって発生した火災がどんどん広がり、大規模な山火事になってしまうだろう。
シャブティが魔術通信で近くの町や村の騎士団に増援を頼むと同時に、魔術が使えるルディアとパルスとシャブティの連隊員の中で魔術が使える人間が延焼する前に消しに向かった。
「まだ規模は小さいから、一気に消してしまいましょう!」
「わかった!」
残りのメンバーたちはとにかく避難することが最優先であると考え、一気に山を下りることに決めたのだが、その時シュソンがあることに気が付いた。
「あれ……ちょっと待って。この辺りって確か僕が来たことあるルートじゃないかな?」
「え?」
「確かこっちの方に向かうと、同じく道は狭いけど別のルートに出られるはずだよ。そこを通って山を下りよう」
無我夢中で走り回っていた一行は、いつの間にかシュソンが魔物討伐のために通ったルートまでやってきていたらしい。
事前にルギーレの強い勧めもあって十分すぎるほどの食料や薬を買い込んでいたのも幸いし、山を下りるまで食料やケガの心配はほとんどしなくて良くなった。
そうして息を整えているとルディアから魔術通信がルギーレに入り、山火事の延焼を防ぐことに成功したとの連絡があったので、これで一安心である。
しかしそれとは対照的に、王都ベルトニアでは一安心できない状況に陥っていたのもまた事実だった……。




