226.薬
ローレンが飲んだビンの中の薬。
それをどこでどうやって手に入れたのか? そしてなぜこのタイミングで彼が飲むのか?
その経緯は王都ベルトニアに滞在していた時までさかのぼる。
◇
「うーん、そんな薬があったんですねえ」
「そうなんですよ。ラーフィティアだけじゃなくてエスヴェテレスにいた時もそういうのを敵に使われまして」
おかげで魔術が使えない苦しみを何度も味わうことになりました、とルディアがジェバーに対して伝えてみると、ハイテンションな宰相はふとあることを思い出した。
「あ、そうだ……そういう魔力が使えないようにする薬だったらあるにはあるんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。一般には出回っていないだけでいろいろと私もそういう薬を開発してましてねえ~。魔術師と薬草は友達みたいなものですからねぇ~!! あなたも魔術師だったらわかりますよねぇ!?」
「は、はぁ」
それはまあわからなくもないが、さすがに魔力を無効化するようなものを進んで研究しようとは思っていなかったルディア。
魔術の勉強の過程で頭には入れてあるものの、だからと言って勉強するかどうかはまた別問題である。
そんなルディアの反応を見たジェバーは、ならばと自分のその研究結果を見せることにした。
敵がそういうものを使っていて、またルギーレたちもこの国に来る前に似たような薬を使ったことがあるのであれば、話が早いと感じたからである。
「飲み薬としていろいろ開発してみたんです~!! ドラゴンの血から成分を取り出して薬草などと配合して試してみた結果、一時的にですが魔力を体内からなくすことができる薬なんでーす!!」
「魔力をなくす?」
「ふふふ……通常であれば魔力が体内からなくなると、そのせいで体調に変化が起こります。しかし、この薬は体内から魔力を消して魔術防壁を突破したり、敵の魔術の効果を一時的になくす効果があるんですよぉ~!!」
「それはなかなかすごいですね!」
それはまさに夢のような薬じゃないかと思うルディアだが、ふと考え方を変えてみると危険な薬でもあることに気がついた。
「あれ? でもちょっと待ってください。それって薬を飲んだ人間も魔力に関することができなかったりするってことですよね?」
「そうなんですよお、それが最大のデメリットなんですー! だから魔術師じゃない人が魔術師を相手にするならかなり効果は絶大かと思うんですけど、例えば剣だったり槍だったりを持っている人を相手にするのであれば、魔術防壁をかけてもらった人は絶対に使うのは避けた方がいいですねえ~!!」
薬を飲むと、せっかくかけた防壁も消えてしまっているんですから危険、危険、危険です~!! とこの広い研究室内に響き渡る声量で叫ぶジェバーを見て、プライバシーも機密事項も何もないわね……とルディアは呆れてしまった。
だがしかし、結論としては使い道さえ間違わなければ非常に有利に勝負をすることができるので、お言葉に甘えて薬をいただくことにしたルディア。
事前に死刑囚などで人体実験を行なっているので人体への影響はない。ただし試作品ということもあって、その効果は五分しか持たない。
「ヴィルトディンでニルスという、最初にお話しした私たちが戦わなければいけないその男に使った薬も同じようなものでしたけど、まさかここでこうして手に入るとは思いませんでした」
「そうでしたか。まあ、私ももっと研究を進めて持続時間を長くするようにしますから。あ……そうそう、ちゃんとこのことは他の方々にも伝えておいてくださいね」
「もちろんです。ありがとうございました」
◇
そのルディアから伝えられた薬をこうしてここまで持ってきたのだが、それが今まさに活かされる時が来た。
薬を飲んだローレンはハルバードを構え、海竜もどきが自分の方を向いていないそのタイミングを狙って一気に駆け出した。
すると体内からスーッと血の気が引いていくような不思議な感じがすると同時に、ちょっと身体が軽くなったような気がした。
(このまま一気に突っ切る!)
敵の方で生き残っている人間を素早く倒しつつ進み、海竜もどきのそばまで到達することができた。
いまいちこの結果では薬の効果があったのかどうかはわからないが、単騎で突撃するので他のメンバーに動かないように指示を出していたこともあって、やはり動いている敵の魔力に反応していたのは本当だったらしいと結論付けた。
そのローレンは海竜もどきの首の付け根にたどり着き、そこからどうしようかを考える。
(確かファルスでルディアが戦ったと言っていた海竜もどきは、その中に人間のシルエットが見えたと言っていた。となればやはり、私の姿を……正確には体内の魔力を感知できる機能がついていて、それを中の人間が見ることで攻撃の対象として捉えていたのか!)




