224.山の中のやぐらと……?
「あら? これって人間の足跡じゃないかしら?」
ルディアが見つけたものは、今まで自分たちが魔物と戦っていたことでついたものではない、多数の古めの足跡であった。
魔物と戦ったのであれば靴の向きがバラバラにつくはずなのだが、それは行きと帰りについたのであろう二種類の向きしか存在していなかったのである。
もしくは何か重いものを二人で向かい合わせになって持ち運んだかしたものだった。
更に言えば、これまた荷物の運搬に使ったのであろう荷車の車輪の跡もくっきりと残っているではないか。
そこにティラストとシャブティが注目する。
「ふうむ、これは興味深いですねえ」
「そうだな。ここまで全然こんな足跡とかなかったのに、ここから先にたくさんついてるってのは怪しいよなあ」
そのついている足跡が向かう先の道は、到底大型の魔物が入れないのがわかるほどに狭い道である。
しかし荷車ならなんとか通れそうなのと、人の手が入っていないはずのこの獣道を大人数で強引に通ったとみられる苦戦の跡が、やはり何者かが先にいることを知らせてくれている。
「バラバラの状態の材料を大人数で運んで、この先でやぐらを組み立てたとしか考えられないな」
「ええ。そして何かをしでかそうとしているのがわかりますね」
「だったら止めに行くしかないでしょう!」
ローレンもラルソンもパルスも同じ気持ちのようだが、その一方でロサヴェンがこんな疑問を抱く。
「でもさあ、材料を運ぶんだったらワイバーンで一気に山の中に運んだ方が早いんじゃないのか?」
「いや、それだと目立つだろうから時間はかかっても山の中を通るルートでなんとかしようと思ったんじゃないかな。それにこの山にはワイバーンが着地できるところは限られているし」
「あー、だったら納得だ」
いくらまだまだ未開発の地方があったり、この辺りの人口は少なめだとはいえ、リスクを避けるのであればやはり空からのアプローチは避けたのだろう。
しかし、ロサヴェンの疑問に答えたシュソンには別の疑問があった。
「それよりも僕が引っかかっているのは、わざわざこんな場所までやぐらを建てて何をしようとしているのかってことだよ。いや……ここだけじゃない。今まで壊してきた三つのやぐらだってそうだし、ここ以外に残っている二つのやぐらもきっとそうだ。なんの目的があって奴らはこんなことをしているんだ?」
「そりゃああれしかねえだろ。この国をこれから支配しますよってアピールだろ」
「それだったらもっと目立つ場所にやぐらを建てたっておかしくないはずだ。でもあえて連中は多分この先を選んだみたいだ。その理由を僕は知りたい」
シャブティの予想はスルー気味に返答し、考え込む素振りを見せるシュソンだが、今ここで考えても答えは出ないだろう。
それよりは先に進んで、この先で怪しい行動をしているであろう連中を締め上げて吐かせてしまった方が手っ取り早い。
ルギーレがそう言ったのがきっかけで、少し休憩して体力を回復した一行はその狭い道を進み始める。
だが、その途中で新たに疑問を抱いたのはルディアだった。
「私、気になってるんですけど……やぐらを破壊したら王都に何か悪いことが起きてませんか?」
「えっ?」
「だって前のやぐらを破壊したら駅の機能が全部ストップしちゃったらしいですし、その前だって魔力の異常暴走が起きたとかって言ってましたから、なんだかやぐらと王都って無関係じゃない気がするんですよね」
「おい待てよ。それってカルヴァル陛下やジェバー様を疑っているのか?」
疑問を聞いたシャブティがそう突っかかってきたが、もちろんルディアにはそんなつもりはないし、違う意味があっての疑問だった。
「そうじゃないですよ。こんな山の中とか、僻地の林の中とかにわざわざやぐらを建てた理由と何か関係があるんじゃないかって思っただけですよ」
「ふうん……じゃあさあ、それってどういうことか言ってみろよ?」
「それはまだわかりませんけど、でもやぐらを壊したら何かしらの悪いことが王都で起こっているのは事実だと思います。だから次のやぐらを壊してみて、それで王都に確認してみればわかると思います」
それが杞憂に終わってくれれば一番いいのだが、今までの流れからしてみるとなんだかただでは終わらないような気がするルディア。
しかし、それもまたこの先にいるであろうやぐらを護る連中を締め上げて聞き出した方が早い。
その思いで狭い道を進み続ける一行だが、待ち構えていたのはやぐらとそれを護っている連中以外に、強大な存在も一緒だったのである。




