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21.列車の中で

「さってと、列車に乗ったわけだがメシを食った後にしばらく寝ないか?」

「いいわよ」

「じゃあ決まりだな」


 アーエリヴァまでの列車の旅はとにかく長い。

 国境を一つ越えるので歩いたり馬に乗ったりするよりも楽なのはありがたいが、のんびりと旅を楽しむならそれこそ馬に乗ってもよかったかなと考えるルギーレ。

 しかし、それと同時に別のことも考えていた。


(まだ……あの鍛錬場で騎士団の二人と戦った時の余韻が身体の中に残ってる気がするな…)


 あの剣をすでに手放してしまったとはいえ、剣の中から発せられていた強大な魔力が今も身体の中に残っているような気がして仕方がないルギーレ。

 だが、これから先はあの剣の力がもう無いので自分の力のみを信じて生きるしか無いのである。


(大丈夫だ、あんなもんに頼らなくたって俺はやれるぜ!)


 そう心の中で宣言するルギーレたちの乗る列車は、食事を摂って二人が寝ている間に数回の駅への到着を繰り返したため、なかなかの混み具合を見せている。

 そのため、少しスペースを詰めてもらって空いている席に座る乗客も出てきたほどだ。

 そしてこの二人が向かい合わせに座っている四人掛けの席にも、一人の男が隣に座らせてもらえないかと頼みに来た。


「……ん?」


 先にその気配に気が付いて目を覚ましたのはルディア。

 自分のすぐ横に、何者かが立っていることを察知して意識を覚醒させていくと、まず目に飛び込んできたのは黒いロングコートを着込んだやや背の高い人間の姿だった。


「ここ、空いているか?」

「ええまあ……」

「少し混んできているのでな。よかったら隣に座らせてもらえればと思うのだが」

「あ、はいどうぞ」


 窓側に移動し、荷物を足元へと置くルディア。

 その黒髪の男は腰にロングソードを携えており、麻袋を背負っているので冒険者の類だろうと判断した。

 だが、男はいまだに眠ったままのルギーレを腕を組んでじっと見つめている。


「……」

「あの、私の連れがどうかしましたか?」

「いや、なんだか不思議な魔力を感じるというか……気のせいかな」

「え?」


 不思議な魔力というのは十中八九、あの置いてきた例の剣から発せられていた魔力の残りだろう。

 しかし今ここで初めて出会った人間にそのことをペラペラ話すわけにもいかないので、ルディアは否定しておくことに決めた。


「多分気のせいだと思います。ずっと一緒にいますけど、別にいつもと変わりないですよ」

「そうか」


 冷静につぶやいた男は組んでいた腕を解き、そのままひじ掛けに腕を乗せて頬杖をつき、それを枕代わりにして眠ってしまった。

 それにしても、あの剣の魔力はやはり普通ではないということなのだろうか。

 今は何とかごまかせたが、この列車の中でなるべく動かないようにしていないと、魔力を怪しむ者が他にも出てくるかもしれないとルディアは考えてしまった。


(とりあえず、余計な行動はなるべく起こさないようにしよう……)


 そう考えながら窓の外をのぞいたルディアだったが、その瞬間ガクンと身体が前方に揺さぶられる。しかもかなりの勢いだ。


「きゃっ!?」

「うおおおっ!?」

「くっ……!!」


 向かい合わせに座っていたルギーレは背中を引っ張られるような感覚で一気に目を覚まし、隣で頬杖をついていた男はルディアと同じくガクンと前のめりになってバランスを崩した。

 どうやら列車が急ブレーキをかけてスピードを落としたらしい。

 他の乗客たちも突然の出来事にざわめく中、前方車両から列車の係員が乗客たちに事情を説明しに回ってきたところによれば、なんと線路の先が山からの落石によってふさがれてしまっているらしいのだ。


「えっ、落石?」

「くっそ……なんてこった。これじゃあアーエリヴァに行けねえじゃねえか!!」


 しかもその落石はかなり大きなものらしく、これではどかすのにも時間がかかりそうだという話なので、乗客たちはここで足止めを食らってしまうことになった。

 しかしその足止めを食らう原因となる出来事がこの後、もう一つ起こることになる。

 それは現在、ルギーレとルディアが乗っている車両の後ろの方からドカドカと響いてきた複数の足音から始まった。


「オラァ! お前ら全員金目の物を出しやがれえ!!」

「はっ!?」

「お、おいおいあれって盗賊か!?」


 正確には列車強盗というべきか。

 武装した男女が複数人、後ろのドアから乗り込んできたのである。

 しかもかなり殺気立っており、これは抵抗してはまずいという雰囲気がヒシヒシと伝わってくるのが分かった乗客たちは、無抵抗のまま金目の物を差し出すしかなかった。

 そこで黒髪の男がポツリとこんなことをつぶやいた。


「……まさか、さっき連絡のあった落石ってこいつらがやったんじゃ?」

「そ、そうなのか?」

「いや、間違いないだろうな。そうでなければこんなに絶妙のタイミングで列車に乗り込んでくるような真似はできないだろう」

「いや、落ち着いている場合じゃねえだろ!」


 強盗団に乗り込まれているのに、男のこの落ち着きようは一体なんなんだ。

 そうルギーレが疑問を抱いた時、さらなる衝撃がこの列車を襲ったのである。

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