218.燃やせばいいじゃん
木の陰から陰へと移動をする予定でいたルギーレたちのグループは、見つかってしまったことによって強行突破でやぐらまでたどり着かなければならなくなってしまった。
さすがに敵の方も、これまでに二回もやぐらを壊されているだけあってそれなりの対策をきちんと立てていたらしい。
さらにここは前回の集落の中、前々回の平原の中とはまた違って狭い林を抜けたところにある広場にやぐらが設置されているせいもあって、そこにたどり着くためにはどうしても敵との戦闘は避けて通れない。
今までも警備の人間たちを倒して進んでいたが、林となれば木々が邪魔になるので思うように武器を振り回せないのがつらいところである。
(くっ! これじゃあ僕の斧が全然振り回せないじゃないか!!)
こういう時に長い獲物は非常に不利である。
それを身をもって感じているシュソンだが、それでも斧隊の隊長を務めるだけあって今までの経験とテクニックで不利をカバーする。
対する敵たちは色とりどりのコートに身を包んでいるのも、持っている武器がそれぞれバラバラなのも気になるのだが、今はそれよりもしっかりと撃退するのが大切だ。
また、同じ悩みを抱えているのはハルバードを使って豪快に敵をなぎ倒しながら進んでいくタイプのローレンもである。
(駄目だ、この展開では林の外に出て戦った方がいいな!!)
しかし、林の外は外でまた危険が潜んでいる。
それは最初にルギーレたちの姿を発見した見張りたちが放ってくる矢である。
木の上から狙われているため、接近戦となる武器では全く手が届かない場所にいるので、どうしても弓使いや魔術師の存在が必要となってくる。
仕方がないので、ここは一か八かで林の外に出つつ手に別の武器を持つローレン。
それは彼に襲い掛かってきた敵の一人が持っていた、片手で使うタイプのバトルアックスである。
それを大きく振りかぶって、木の上にいる敵に命中させることに成功した。
「うっ……わああああああああああっ!!」
「おー、すげえ……」
断末魔の絶叫をあげながら落ちていく敵の姿、そして斧を投げぬいたローレンの姿を視界に捉えたシュソンは、彼の驚異的なコントロールに思わずそう呟いていた。
しかし、一番その結果に驚いていたのはローレン本人である。
(ま、まさか当たるとは思わなかった……)
確かにある程度目標を狙って投げたとはいえ、あれだけきれいに斧がヒットしてくれるとはローレン本人も思っておらず、自分のコントロールに恐ろしくなってしまった。
そんな偶然によって倒された見張りから、今度は弓と矢を奪って遠距離射撃で敵を倒すローレン。
ハルバードだけしか使えないわけではないので、今度は的確に動く的となっている敵を狙って仕留めていく。
また、残っている木の上の見張りも掃討して先に進んでいく同じグループの人間たちのバックアップをしっかり担当する。
だが、その先に進んでいるグループとはまた別に、反対方向から進んでいるグループの先頭を進むルディアとパルスの地下戦闘コンビは、お得意の魔術や短剣で有利に戦いを進めていた。
「こっちも燃えるわよ!」
「危ないぞ、離れろ!」
林の中で戦うのであれば、いっそのこと林そのものを豪快に燃やしてしまえばいい。
そう言いだしたロサヴェンと、許可を出してくれた連隊長ジレフィンの後押しもあって、ルディアはファイヤーボールを生み出して次々に木々に着火していく。
相手がかなりの大人数で向かってくるのであれば、その拠点を一気に消してしまえばいい。
どうせこの林の中にやぐらを勝手に建設されてしまっているのだし、一緒に丸ごと燃やしてしまえば余計な労力を使わなくて済む。
その計画は魔術通信によって、一緒に進んでいたラルソンからルギーレたちのグループの手が空いている者たちに伝えられる。
「……ということですから、そちらにもじきに火が燃え移るでしょう。気を付けてください!」
この林はそこそこ広いとはいえ、五分も歩けば外周を一回りして帰ってこられるほどの広さしかない。
なので一気に燃やしてしまえばいいんだと覚悟を決めたこの一行だったが、そんなことは許さないとばかりにやぐら側のリーダーであるジレフィンが動き出した。
(くそっ、あいつらこの林ごと燃やすつもりなのかよ!?)
こんなんじゃ俺たちとやってることが余り変わらないような気がするぜ……とつぶやきながらも、まずは目の前にいるジレフィンの部下の一人を槍で心臓を一突きにして殺害し、リーダー自らが動き出した。
目標はもちろん、ここに乗り込んできた全員の殺害である。……今までの恨みを込めて。




