216.うごめく影
「計画は順調なのかい? ヴァンリド」
「ああ。あんたからこうして声をかけられて、一緒に国を取り戻すって約束したんだからな。順調に進んでくれなくては困る。私の計画に邪魔な奴らは必要ないからな」
「ふふふ……いいねえ、そのストイックさ。やっぱり君と手を組んで正解だったかもね」
ニルスは、久しぶりにこのラーフィティアに戻ってきたヴァンリドと手を組んで、もともと彼の国だった土地の奪還を勧めている真っ最中である。
ニルスよりも大柄なその中年男は、無精髭を生やして髪の色を左右で金と黒にわけており、顔はシュッとしているスマート系である。
そして、その顔に入っている大きな傷跡が特徴的な彼の灰色の瞳は、これからのことで頭がいっぱいなのがわかるぐらいにギラギラしている。
そうでなければ、わざわざ不慮の自然災害によって壊滅状態に陥ってしまったこの国に戻ってきたりはしないからだ。
「私もお前と手を組んで正解だったと思えるようにしたい。あんなに目立つやぐらをいくつも建てて最初は何やってんだと思ったが、まさかそんな計画を立っていたとはな」
「ふふふ……君の話を聞いた時、私は自分の頭の中で突然閃いたんだよ。これしかないんじゃないかってね」
だが、その閃いた計画を実行に移すためには多大なる労力が必要になる。
そこで今の自分たちが持っている労力をそれぞれ全て注ぎ込み、急ピッチの作業となってしまったがこうして実行に移すことができた。
「数が少なくなってしまったとはいえ、そっちの十二の騎士団は未だに健在なんだから大したもんだよ、本当に」
「そうだろう。なんだかんだ言って、私にこうしてついて来てくれた連中に楽させてやりたいんだからな。そのためにはなんだってやってやるさ」
このセリフだけ聞いてみれば、ヴァンリドという男はかなりの部下想いな性格だといえるだろう。
しかし、彼はその暴君として一国一城の主になっていた過去を消すことはできないのだ。
「感動して涙が出そうだよ。それじゃあ、私も君の野望を実現するために部下を頑張って働かせるだけだよ」
「お前は働かないのか?」
「もちろん私だって働くさ。計画を立てて部下を動かして、その計画を実行に移すのだって十分に働いていることになるはずだ」
それはヴァンリドも同じく人を動かす立場だったので、わからないわけがなかった。
いや、国を離れたとはいえ傭兵団として十二の騎士団を動かす存在になっているのだからニルスの気持ちはわかる。
「すまない、失言だったな……」
「いや、別に気にしてないからいいよ。それよりも計画の後に何をするかっていうプランはちゃんと練っているんでしょ? その十二の騎士団の団長たちと一緒にさ」
「当然だ。やぐらはあくまでも向こうの戦力を分散させるためのカモフラージュで、向こうがやぐらを壊しに行っている間に全ての戦力を王都にぶつけて一気に制圧する。だからお前の部下もやぐらを全力で護ってるんだろう?」
それも幹部たちがさ、と付け加えてヴァンリドが質問すれば、ニルスは相変わらずの微笑みを浮かべたまま肯定する。
「そうだよ。でもすでにやぐらは二つ破壊されてしまっている。だからどのタイミングでベルトニアに攻め込むかだね」
「そこが難しそうなんだよな。十二の騎士団も数がずいぶんと減ってしまったし、私だって前線に立たなければならないかもしれない」
それに、ともう一つ気になっていることを思い出すヴァンリド。
「ほら……あの伝説のレイグラードの使い手だっていうルギーレって奴だったっけ? あれがお前たちの邪魔をしてるらしいじゃないの」
「うん。でも、その連中が今のラーフィティア騎士団と一緒にやぐらを壊しに行っている間に、手薄になった王都を襲撃するんだし……確か私の計画は君にも全て話してあるよね?」
「ああ。やぐらを壊せば壊すだけこっちに有利になるんだろう?」
「そうだよ。まあ、それも含めて後は君たちがどのタイミングでベルトニアに攻め込むのか、君と十二の騎士団の団長たちとで考えておいてよね」
ただしその攻め込むまではいいとしても、攻め込んだ後は絶対に短期決着をするべきだろうとニルスは助言する。
「こっちは王都のベルトニアさえ制圧してしまえば、後はどうにでもなる……やっぱりベルトニアが一番の重要拠点になるからね」
「ああ、それじゃ私はその話し合いに向かう」
「頼んだよ。話が進展したら私にまた報告に来てよね」
その言葉通りに話し合いに向かったヴァンリドが部屋を出て、ドアを閉めて足音が遠ざかっていく。
それを確認したニルスはギシリと椅子を軋ませて、ポツリと一言呟いた。
「哀れな道化師め……」




