215.王都ベルトニアの異変
「なーるほどぉ~! 確かにそれは一大事ですねぇ~!?」
「……相変わらずだな、あんたのそのテンションの高さは」
ラルソンが呆れるのも無理はなかった。
このジェバーという宰相は、イディリークで魔術師として活動していたころからやたらテンションの高い変人として有名だったのである。
魔術師は引きこもり体質の人間が多いゆえに、このジェバーを始めとしてかなり変わった人間たちが多いというのがこの世界での常識でもあるのだが、イディリークの中ではジェバーが群を抜いて変人扱いされていた。
それでも、その変人っぷりの反動なのかは知らないがイディリークの魔術師の中では飛びぬけてその腕が良いことでも知られており、イディリークの魔術に関するいろいろな技術やその効率のアップに貢献してきたのである。
しかし彼もまた、現国王のカルヴァルと同じようにイディリークに反乱を起こしたことがきっかけで国を追放されてしまい、この地に流れ着いた後に宰相として活動するようになったのだという。
「私も宰相の仕事なんてやったことがありませんでしたから、もうそれはそれは手探り状態だったんですよぉ~!」
「……楽しそうだな、あんた」
「楽しい? いえいえ~、もうた~いへんだったんですからぁ~!! わかります? 国をまとめるのって魔術の研究よりも大変で骨の折れる仕事なんですよお?」
「うん、それは確かに大変そうですね」
ロサヴェンもルディアも、この男の妙なハイテンションっぷりにはついていけてない。
もちろん他のメンバーも同様なのだが、同じく追放された身分であるルギーレだけは彼の気持ちとテンションについていけているようである。
「いやー、俺はわかりますよジェバーさんの気持ち」
「それは~? 例えば~?」
「例えば……例えば知らない土地で一からやり直すっていうのとか、それで何とかその生活に慣れてきたら気持ちがいくぶんか落ち着いてくるところとか、そういうのですよ」
「ありがとうございます~!! もったいないお言葉、感謝感激です~!!」
(この男、ついていってる……)
ルディアを始め、周りのメンバーがルギーレに対して呆然とする中で二人の会話は続く。
「それでですね、俺たちは今話した通り三つ目のやぐらを壊しに行きたいんですけど……その前に教えてもらえませんか。このベルトニアで何が起こっているのかってことを」
「いいでしょう~! あなたたちがやぐらを壊して回ってきた連絡は私たちの耳にも届いていますが、その頃からなんですよねえ、魔力の異変が察知されたのって」
ジェバーいわく、この原因不明の魔力暴走が起こり始めたのはその頃らしい。
南へ向かうはずだったルートを予定変更した時の最初の報告では「昨日辺り」と聞かされていたはずだったが、正式な時期は彼の調査をもってしてもよくわかっていないらしい。
なので一応「昨日辺り」としていたのだが、それよりも気になる話があるのだという。
「それと関連あるかどうかは微妙なんですけどねえ、最近、王都の周りで不審な人影を目撃したとの情報が相次いでいるんですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。それで私たちとしても警備を強化していたんですが、私たちが警備しても全然そんな不審な人影を捕まえることはできませんでした」
「ええ~?」
だとしたら警備の方法に問題があったり、人員が足りていないのではないか?
ストレートにそう聞いてみるルギーレだが、ジェバーはもっと何か別の問題があるような気がしているのだ。
「それなんですけどね、最近ほら……前の国王だった暴君のヴァンリドがこの地に戻ってきているって話があるんですよ」
「ああ、それだったら俺たちも聞いています。シュソンさんが調べてくれたんです」
「ええ。この国を取り戻そうとしている人間たちがいるって話でしたよね。それからそちらの予知夢を見ることができるっていうルディアさんの夢ですけど、どうも無関係とも思えないんです」
自分も魔術師だけあって、あなたの噂は遠く離れたイディリークまで届いていたと話すジェバーに、どうリアクションしていいのか困ってしまうルディア。
いずれにしても、このラーフィティア全土で何かの実験をしているのが本当なら、奴らの実験計画をさっさとつぶすべく動いてほしいというのが宰相としてのジェバーからの要望であった。
「残るは四つのやぐらですから、まずはこの王都で装備や食料を整えていくとよいでしょう。お金に関してはこちらで全て持ちますから、そちらも全てのやぐらを破壊して戻ってきてください」
「もちろんです」
この先で何が待ち受けているかわからないが、まずは三つ目のやぐらを破壊するべく一晩この王都で休んでから翌朝、一行は東に向かって出発した。




