214.帰還
しかし、そのルギーレの予想する内容もまだ仮定にしか過ぎないし、予知夢は外れることだってあり得るのだ。
王都ベルトニアの異変については現地でいろいろと調べることを約束し、西のやぐらがあった場所からトータルでおよそ二日かけてそのベルトニアにたどり着いた。
「あー、やっと着いたぜベルトニア!」
「私もルギーレも来るのは初めてなんですけど、なんだか他の国の都と比べると貧相って感じ……」
「はは、まあそりゃあまだまだこれからってことだからな」
町並みをざっと見渡して率直な感想を漏らすルディアに、パルスが苦笑いを浮かべる。
確かに彼女の言う通り他の城下町と比べると活気がない印象だが、実はある理由があってのことだとか。
「ほら、このベルトニア含めてラーフィティアって復興してからまだそんなに時間が経っていないからさ、人もまだまだ戻ってきてないわけ」
「ああ、そう言われてみると確かにそうですね」
「それにさ、やっぱり一度ついたイメージを払いのけるにはそれもまだまだ時間がかかるんだよ。国王が変わったとはいえ、元のラーフィティアって国がどんな王様が支配していたのかってのを知っている人間からしたら、イメージは今もまだ最悪のままなんだからさ」
パルスの言う通り、失った信頼を取り戻すのは人間という存在からしても、国という存在からしても同じくらい難しいものである。
人間の場合は、悪い方向に進んだまま時間が経過してしまえばその信頼を取り戻すことが永遠にできないまま一生を終えてしまう。
だが、国がそうなってしまった場合には最悪の国家というレッテルを貼られたまま、他国から孤立して過ごさなければならないという生き地獄を味わうことになる。
それはそこで生まれ育った国民全てがそうである。
人間一人だけならまだリカバリーができない事態に陥る前に、いい方向に進めばなんとか挽回できるかもしれない。
それが国の問題となると、そこで生まれ育ったと自己紹介しただけでその人間には悪いところはなかったとしても、やはり一歩引いた目線で見てしまう人間の方が多いのだろうとパルスは言う。
「まー、今の国王も俺たちイディリークから追放されてこっちにやってきて、それで国を立て直したっていういわくつきの連中だからなあ。イメージは良くはないな」
横から口を出してきたラルソンも、パルスと同じ気持ちらしい。
そんなラルソンとパルスの上司にあたるローレンが、二人を誘って城へと向かうと言い始めた。
「まあ、その追放した側の人間が私たちなのだがな。それはそうとラルソンにパルス、私たちはその追放した元将軍に会いに行かなければならないだろう」
「ああ、そうですね。連絡ってもう入れたはずですし、こっちにはヘーザってのもいますからすんなり入れてくれるはずですよ」
「そうじゃなかったら無理にでも会わせてもらうつもりではあるがな」
実際の話、こうしてここまでやってきたのはその現国王の部下であるヘーザに帰還命令が出たからである。
なのでこうして一緒についてきた人間たちもまた、三つ目のやぐらを破壊する前に顔を出しておかなければならないのだった。
◇
「久しぶりだな、ロクエル近衛団長」
「それはお互い様だろう、サルザード将軍」
簡素な玉座に座っている茶髪の大柄な男が、この国の国王であるカルヴァル・サルザードだ。
その横には元イディリーク帝国王宮魔術師で、現新生ラーフィティア王国宰相のジェバーが直立不動で控えていた。
そしてローレンから将軍と呼ばれたカルヴァルは、苦笑いを浮かべながら訂正する。
「おいおい、俺はもう将軍じゃなくてこの国の国王だ。「元」将軍だよ」
「そうだったな。ひとまず、今回イディリークが襲われたことで救援の軍を出してくれたことを、リュシュター陛下に代わって礼を言う」
「ははっ、本当はそんなことを言いに来たんじゃねえだろう? 礼ならリュシュター陛下からもちゃんともらったよ」
そんなやり取りの後、事前にある程度ローレンが報告を入れていたルギーレたちの存在を紹介する。
そして彼たちは自分の口で自己紹介をしてもらい、改めて本題に入る。
「さってと、それじゃあジェバーの奴にいろいろと頼んであっからよぉ。詳しくはジェバーから聞いてくれや」
「ん? 同席しないのか?」
「ああ。俺はジェバーと何年コンビ組んでると思ってんだよ。もう十年以上は一緒にやってんだ。後からしっかりと話を聞くから心配すんな。俺だって忙しいんだよ」
カルヴァルはカルヴァルで、帰ってくるように命じたヘーザから今までのやぐら破壊などに関しての報告を聞かせてもらわなければならないのだ。
だったら一緒に聞けばいいんじゃないか? と考えるローレンだが、いろいろとこの国の騎士団の機密事項もあるし、ジェバーに全て話せば解決するからと言うのでここはおとなしくそのジェバーに全てを話すことにした。




