213.予知夢の内容について
どこかの大きな町。
遠くの方に城が見えるということはどこかの国の城下町らしいのだが、城のシルエットは霞んでいてどこの国かまでは定かではない。
時刻は夜。
賑やかに行き交う人々、仕事終わりに一杯ひっかけようと店に立ち寄る中年男性。いざこざを鎮めているパトロール中の騎士団員。
いろいろな町の人間の顔が見られる、そんな賑やかな景色が広がっている中をルディアは歩き続ける。
しかし、その道中で景色は一変する。
「きゃっ!?」
突然、大きな地震が起こった。
しかも立っていられないほどの揺れが人々を襲い、その揺れによってなんと石畳の地面に亀裂が入り始めた。
(えっえっ……なんなのよこれは!?)
その地割れから逃げようとするルディアだが、地震による揺れが影響してまともに移動することができない。
まるで悪魔の叫び声かと錯覚しそうな地鳴りとともに、やすやすと石畳を砕いて地割れが迫り来る。
そしてついに、彼女はその地割れから逃げきれずに裂け目に落ちていってしまった。
その裂け目に落ちる瞬間、最後に見たのは燃え盛る城の姿だった――
「うっ、うわああああああっ!?」
「おわっ!?」
目が覚めると汗がビッショリなのがヒシヒシと感じられたルディアは、まだ列車の中に乗っている状態が続いていた。
ハァハァと息を切らしながら周囲を見渡してみれば、横には目を見開いて何事かと自分の姿を窺っているルギーレの姿。
そして向かいには、交換してもらった席のままであるシュソンとロサヴェンが、ルギーレと同じく驚きの表情を浮かべていた。
どうやらものすごい勢いで飛び起きたらしいのだが、絶叫までものすごかったようであり、自分以外の乗客も起こしてしまったらしいとルディアは理解し始める。
「あっ、あの……起こしてしまったみたいでごめんなさい!」
「いや……俺たち以外にこの列車には誰も乗っていないからそれはいいんだけどさ、なんかすげえうなされてたからまた予知夢でも見てんのかなって俺たち全員気になってたんだよ」
「えっ?」
もう一度よく周囲を見渡してみれば、ここまで一緒にやってきた全員が座席から身を乗り出して視線を送っている。
そうだ……自分は今、かなり鮮明な夢を見ていたんだと徐々に顔が青ざめ始めるルディアは、夢の内容を自分たち以外の乗客に話し始めた。
「……という夢だったんです」
「どこかの城下町が地震に襲われる……それってどこなのかわかればいいんだが、結局わからないんだよな?」
「はい。もうその地震と地割れのインパクトが強すぎたのもありますし、城の姿が霞んでいたのでどこの国かまでは……」
ローレンの質問にそう答えたルディアだが、これまでの流れから考えてこの先どこかの城下町でそんな大きな地震が起こる可能性があるということだ。
じゃあどこを警戒すればいい?
その疑問が、すでに夜が明けても走り続けているこの列車に乗っているルギーレたちの会話のテーマになった。
ヴィーンラディの預言者が見たてホヤホヤの夢を、そのまま聞き流すにはいかない気がしたからだ。
「石畳なんてどこの都にもあるよな?」
「そうですね。せめてもう少し詳しい内容がわかれば見当もつけやすいのですが……」
「それがわからないんじゃあどうしようもあるまい」
ラルソン、ティラスト、シュソンらが夢の内容について話し合うが、ルディアの見た内容が非常に限定的なものだったので、結局どこの城下町なのかわからずじまいである。
しかし、地割れがするほどに大きな地震が起こるというのは確実に犠牲者が出る内容だ。
それが単なる自然災害として起こるものなのか、もしくは誰かが故意に引き起こすものなのか。
前者の可能性の方が高いのだが、後者の可能性もなくはない。
なぜならこれまでの一連の事件の裏には、あの詳細が不詳のニルスという男がいるからである。あの男が地震を引き起こせる装置を開発していたって驚きはしない。
そんな話し合いが行われる中で、ここじゃないかという予想を言い出したのはルギーレだった。
「そういえばこれから俺たちが向かう王都って、何か変なことが起こったって言ってませんでしたっけ?」
「ああ、魔力の異変だな」
「なるほど。じゃあ一番最初に警戒しなきゃいけないのは、その王都かもしれないですね」
「なぜそう思う?」
ロサヴェンがそう聞いてみると、ルギーレは今までの自分のエピソードを思い出しながら答え始める。
「だって俺たちが行く先々で、ニルスとかいう奴らやウィタカーのバーサークグラップルが揉め事起こしてるんですよ? 今回だってやぐらを二つ破壊して、さあ三つ目に行こうって時に緊急連絡が来て、それでこうやって行き先変更してるんですから。だから何かしらの揉め事が王都で起こるんじゃないかって、俺はそう思ってるんですよね」




