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20.それぞれの旅立ち

「一晩話し合った結果、我らはお前たちを自由の身とする」


 ただし、あの剣は遺跡から勝手に持ち出したものだから置いていくように。

 それが自由の身となる条件だ、とディレーディはルギーレとルディアに言い放った。


(ま、そりゃそうなるよな……)


 自分だって、あの剣にこれ以上振り回されるのだけはごめんである。

 すさまじい力を手に入れたときは、今までの人生の中で一番の高揚感を覚えたものだったが、あの力を狙っているものがわんさかいるとなれば自分はここから出て行った方がいいだろう。


(俺が選ばれし者の可能性があるだって? ルヴィバー・クーレイリッヒと何かしらの関係があるって? そんなの、もう俺には関係ねーよっと)


 そもそも勇者パーティーを追放されてしまった自分はのんびりと旅をしようと思っていたので、ちょうどいいじゃないかとラッキーに考えるルギーレは、素直にこの皇帝の条件をのんで当初の予定であった東のアーエリヴァ帝国へと向かうことにした。


「さってと、あの剣ともおさらばしたのはいいけどまずは武器を買わねえとな」

「それからアーエリヴァ行きの列車の切符もね。でもあの剣と引き換えに当面の路銀はもらったはいいけど……いつかお金は尽きるからギルドでアーエリヴァ方面の依頼を受けておいた方がよさそうね」

「そうすっか」


 あの剣の謎を探ろうかと思っていたのだが、その話に関しても帝国の方で引き継ぐからとディレーディに言われたので、素直にルギーレはその話を承諾したのも身軽になった理由の一つだった。

 というわけでまずは武器屋に立ち寄って手ごろなロングソードを一つ買おうと思ったのだが、そんなルギーレとルディアの目の前にまたもやあの人物が現われるのだった。


「あら……よく会うわねあなた」


「おっ、お前は……なんでまだこの街にいるんだよ!?」

「別にいいじゃない。あなたはもう私たちのパーティーのメンバーじゃないんだから口出ししないでよね」


 武器屋で出会ったのは、勇者パーティーのサブリーダーを務めているベティーナだった。

 相変わらず偉そうな口調で対応する彼女に対し、落ち着けと自分に言い聞かせてルギーレは口を開く。


「ああー、そーだな。お前らがどこで何をしてようが、もう関係ねえからな。逆に俺がこの世界のどこで何をしてようが、お前らにも関係ねえってことだぜ」

「そんなのはわかってるわよ。……あら?」


 ベティーナは視線を落として、おやっという顔をしてあることに気がついた。


「あなた、丸腰なのね。まさかロックスパイダーたちと戦って武器を無くしちゃったの?」

「だから関係ねーだろっつの」

「それもそうね。まあでも、そうやって戦わないで普通の人間として暮らしていくのがあなたにはお似合いね。世界平和は私たちに任せておきなさいよ、はっはっは!」


 笑い声を響かせながらベティーナは武器屋を出て行く。

 その背中を見つめながら、この会話の中でずっと黙っていたルディアがここで口を開いた。


「あの剣のこと、気づいていなかったのかしら?」

「今の言い方からすると恐らくそうだろうな。まあでも、その方が変に絡まれなくて済むだろうし、俺たちも動きやすくていいだろ」


 のんびりスローライフで旅をするならそれが一番いい。

 そう考えながらルギーレはロングソードを二本買い。ギルドに立ち寄って何件か依頼を受けてから列車の中で昼食を摂りつつアーエリヴァへと向かうことにした。

 その二人をヒタヒタと尾行する、黒い影には気づかないままに……。



 ◇



「ありがとう~、ベティーナ」

「どういたしまして」

「あら、なんだか不機嫌そうな顔をしてるけどどうかしたの?」

「……またあの男に会ったのよ。役立たずに」

「えーっ、そうなの!?」


 勇者パーティーがこれから向かう、ファルス帝国方面の列車が発車する駅のホーム。

 そこをあらかじめ集合地点と決めていたので、武器の手入れに必要な物を買いに行っていたベティーナは迷わずに残りのパーティーメンバーと合流できた。

 しかし、あの男に出会ったので気分はいまいちよくない。


「そうなのよ。しかもあの男は丸腰。ロックスパイダーの巣を壊滅させたとか言ってるけど、噂で聞いていたあの剣もどこかに落っことしたんじゃないかしら?」

「は……丸腰だと?」

「ええ。間違いなく丸腰だったわよマリユス。まあ、あんな役立たずは剣じゃなくて他の物を持つ仕事についてくれればそれでいいんじゃないかしらね」


 どうせ役立たずなんだしと吐き捨てるように言うベティーナに対し、マリユスはハハッと乾いた笑いを見せる。


「何がおかしいのよ?」

「いや……あいつのことが気になるのか?」

「そんなわけないじゃない。こうやって話のネタになる出来事があったってだけなの。それよりもほら、みんなの分もちゃんと買ってきたからさっさと列車に乗りましょう」

「ああ、そうだな」


 あらぬ誤解を持たれたらまたストレスがたまりそうだ。

 なのでこの話を強引に打ち切ったベティーナは、ほかのメンバーたちと一緒に列車に乗り込んで南のファルス帝国へと向かい始めるのだった。

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