212.出て行った国民と残った国民
「まあ、そんな国王だったからなのかなあ……急な豪雨とハリケーンでその王都が大損害を受けたんだよ。季節も外れに外れた時だったっていうのに、それで何千人って死者出してさ」
「それなら僕も聞いたことがあるね。確か五年前ぐらいの話だね」
「そうそうそれだよ。それがあってラーフィティアは滅亡まで早かったよな」
その話を聞いていたルギーレとルディアが、あれっと首をかしげる。
「ちょっと待ってください、俺もそれは聞いたことありますけど、それだけで国って滅亡しないでしょ?」
「私もルギーレに同感ですね。城が吹き飛ばされたとか、その何千人の犠牲者の中に王族関係者が入っていたとか、そういうことがあったとしても一国が滅亡するだけの自然災害なんて聞いたことないですよ」
そういう場合も誰かがリーダーとなって、国を立て直そうとするもんじゃないのか?
二人の頭の中にはそんな疑問しか思い浮かばないのだが、この国はこの国ならではの事情があって滅亡してしまったのだ。
「確かに普通に考えれば、僕もロサヴェンも君たちと同じ疑問を持つだろうね。でもさ、このラーフィティアは暴君が支配していた国なんだ。当然そんな王っていうのは自分のことしか考えていない」
「そうだよな。俺が聞いた話だと、城の天気予報士からその災害の噂を聞いたヴァンリドは、自分たちだけが助かろうと思って配下の十二騎士団と一緒にさっさと城の財宝や必要な物をそっくりと持ち出して、それで上手く災害前に逃げおおせたってことだったよ」
当時、その災害に遭わなかったラーフィティアの知り合いから聞いた話がそれだったロサヴェンからの話の内容で、ヴァンリドという国王がどれだけ自己中心的だったのかを窺い知ることができる。
さらに言えば、その災害は王都のみならず内陸部にまで被害が及んでしまい、そこを生活の拠点にしていた魔物たちが安息の場所を求めて海沿いへと大移動を開始した。
その海沿いには人間たちの町や村があり、必然的に人間たちが襲われる結果になってしまった。
しかもトドメに、その豪雨とハリケーンの発生が海の大荒れを引き起こして一部の町や村も壊滅させてしまった結果、国を捨てて逃げる国民が多発してしまったのだ。
一部の国民は自給自足の生活を送り、なんとか生き延びていたのだが、それも現在の国王であり元イディリークのの将軍だったカルヴァルという男が国を立て直して再び統治するまで、長い我慢の時を強いられたのは言うまでもなかった。
「僕のいるバーレンに逃げてきた人もいるし、船で海を渡ってヴィーンラディやアーエリヴァまで逃げた人もいるみたいだし、当時の国民でまだこの国に残ってるのって、僕たちの馬と一緒に列車に乗せてくれたあの町の人々ぐらいじゃないのかな?」
「そういえば、この列車って馬も乗せてくれましたね?」
「利用客が少ないからでしょ。ラーフィティア王国は生まれ変わったとはいえ、まだまだ無人のままの場所は多いからね。それでもこの列車は海沿いで点々と暮らしている国民たちを支える移動手段の一つだもん」
だから無くすわけにはいかないよね、と窓の外に目をやりながらシュソンは言う。
この列車は旧ラーフィティア王国時代から使っているものらしく、先のハリケーンの被害も受けずにこうして現在も使われている。
もちろん、その災害で壊れてしまった線路や駅などは復旧しなければならなかったので再度運行が始まるまでにはかなりの時間を要したらしいが、それでも何とかこうして復活してくれたのは、前の残っている国民からしてみれば非常にありがたい話であった。
利用客が少ない分、今のルギーレたちのように馬もまとめて運べるように一部の車輌を改造していることもあって採算は取れているらしいが、まだまだ完全に利用客が戻ってくるには時間がかかりそうとのことである。
「でも、このタイミングでそのヴァンリドがこの国に戻ってきているかもしれないって話なんですよね?」
「ああ、どうもそうらしいな。今だから言えるけど、俺だってそんな奴が国王になってたから、こんな国で働き続けても意味ないって思って、さっさとバーレンに向かったもんだし」
「やっぱり国民からの信頼を得るのって、それまでの行ないが物を言いますよね。……って、そうじゃなくて。私が思うに、前の国王がこのタイミングでこの国に戻ってきたっていうのは、復興したからこそまた自分の国として運営しようって考えてるんじゃないですかね?」
いや、そうとしか考えられない。
自分のことしか考えていないような暴君だったら、都合のいいタイミングで王都を制圧して再び国王に返り咲くということなんて、普通に思いつく話である。
それに今はこの国にニルスたちの配下もいることだし、ニルスと組んでその計画をやり遂げる可能性だってあるわけだ。
そんな不安を抱えながら、今は戦いで疲れた身体を休めようと一行は寝て目的地まで列車の旅を続ける。
しかしその道中で、ルディアが久しぶりに予知夢を見ることとなったのだ。




