211.「旧」ラーフィティア王国とは?
一方そのころ、ルギーレたちは南へ向かうはずだったルートを予定変更せざるを得なくなってしまった。
なぜなら、このラーフィティアの王都であるベルトニアからヘーザに連絡が入ったからである。
その内容というのがこれまた奇妙なものであった。
「原因不明の魔力暴走?」
「ええ。昨日辺りからいきなり起こったらしいんです」
だから自分たちも応援に行かなければならなくなったんです、と言われたルギーレたちもルートを変更して、一緒にベルトニアまで行くことになった。
いずれにせよこの国の王都には一度立ち寄る予定だったし、新しい国王にも謁見して国内での活動の功績をしっかりと認めてもらわなければならない。
なのでベルトニアへと向かうべく、二つ目のやぐらを壊した一行は駅のある近くの町まで馬で向かい、そこから列車で一気に移動することになった。
ちなみに、このラーフィティア王国の特徴として「海沿いの村や町が大半」であることだ。
「ラーフィティアは今も昔も変わってないもんだな。内陸部に人が少ないのもそのせいだよ」
「そうなんですか? 私はこの国には来たことがないんです」
「え、そうなのか?」
窓の外を見ながら思い出にふけっていたロサヴェンは、自分の向かい側でルギーレの隣に座っているルディアの疑問に反応する。
それに続いてルギーレも同じようなことを言い出した。
「実は俺もこの国で余り活動したことってないんですよ。前の国王がヤバい奴だったから」
「ああ、それなら納得だ」
「私は単純に、ヴィーンラディからここまで来る距離が長かったって言うのと、ヴィーンラディから脱走したことで船の便がすべて国に見張られていたので陸路で世界中を旅していたんです」
「なるほどねえ……」
だったらこの国でも傭兵活動をしていた俺が、もっといろいろなことを教えてやるとロサヴェンが言い出した。
「今言った通り、この国の内陸部には人が住んでいる場所は少ない。海沿いに村とか町が点々と存在しているのは、魔物が他の国と比べてかなり多いからなんだ」
「へえーっ、それは魔物がその内陸部に生息しているからですか?」
「そうさ。まあ、海の方には海の方で凶悪で強力な魔物が生息しているから完全に安全とも言えないんだがな」
それをロサヴェンの横のティラストを挟んで、通路の向こう側の席で聞いていたシュソンが身を乗り出してきた。
「その話、僕にも聞かせてもらえないかな?」
「あー、いいよ。じゃあ悪いけどティラスト、席代わってやってくれ」
「わかりました」
緑髪の男同士がお互いに席を交換し、話の続きがされる。
「僕たちバーレンは南の方でしか海に面していないし、都のネルディアも海から離れているからそうした住民事情には興味があってね」
「へぇ、なるほどね。それじゃ話の続きなんだが、ラーフィティアの内陸部に魔物が多いがゆえに、国民たちは海沿いに住居を求めるようになったんだ」
そのバックストーリーもあって、この国では魚介類や魚料理がメインの食事になっているし、海産物の輸出が他の国と比べてかなり盛んである。
しかし魔物の被害も多かったため、前の国王であったヴァンリドは騎士団に十二の部隊を設立し、四地区に分けて魔物の討伐に力を注いでいた。
「それだけ聞くといい国王じゃないか?」
「まあ、そうなんだけどな……それは国民のためじゃないんだよ。俺が聞いた限りでは、国民の安全を考えて魔物討伐をしていたんじゃなくて、自分が暮らしている王都に魔物が寄ってこないように討伐させてたんだ。要は国王は自分の保身でいっぱいいっぱいだったのさ」
「ああ、それならそれで納得したよ」
「それに国王は秘密主義ってのもあってさ。例えば隊長のバーレンとは隣国だけど、国単位でそっちと交流ってあった?」
そう問われてみれば、確かに滅多になかったかもしれないと思い返すシュソン。
「いいや、余りないな。ファルスとは戦争があってからギクシャクしていたし、ヴィルトディンとの交流が多かったね」
「そうだろう。国王は小心者なのかもしれなかったんだよ。まあ……その国王がいなくなってしまった今となってはどうだったかわからないけど、俺が立ち寄った町や村では少なからずそんな話がチラホラ聞こえてきてた」
事実、海産物の輸入などで業者が取引に出向くことはあっても、その暴君と呼ばれた国王ヴァンリドにいちいち許可をもらって中間マージンを中抜きされていたり、一時は国外に出るのにも他の国同士では考えられない「通行料」を支払わなければならなかったりと、国民の生活を犠牲にしてでも自分たちが潤うことばかりを考えていたヴァンリドだったが、それを食い止めたのが自然災害だったのだ。




