206.二つ目のやぐら
ラルソンの言う、このラーフィティアにおけるレイグラードの話とは次のようなものだった。
「ルヴィバーの建国した、俺たちイディリークばかりにレイグラードの話が集中しがちなんだが、実際には世界中で振るわれていただろう、そのレイグラードは」
「そうですね。この世界各地で活躍したという伝説は歴史書にも残っています」
「問題はそこでさ……レイグラードを振るってこの地の魔物を討伐していった結果、魔物の怨念が取り付いているんじゃないかって話なんだ」
「へ……?」
それって、レイグラードが吸った人間や魔物の血の中に含まれている魔力が最終的に黒い靄になってルヴィバーを飲み込んだ、その話の途中のエピソードらしい。
おかしくなってしまったルヴィバーはこのラーフィティア王国に追放され、それからは消息が全く不明になっていたのだが、最終的に跡形もなく消えてしまったことだけは今も語り継がれている。
つまり、イディリークでは建国者としての彼の姿が知られているが他の地域ではレイグラードを振るう彼の姿しか知られていない。
「でもさ、田舎ならではの語り継がれている情報ってあるんだよ、やっぱり」
「それがこっちの別荘云々って話ですか?」
「ああ。実を言えば別荘があったのかどうかすらも定かではないんだが、もしあるんだったらそのルヴィバーの別荘ってのを見てみたいもんだ」
その別荘があるかもしれない可能性が一番高いのが、今から向かうやぐらを建てられてしまった集落の跡地らしい。
最終的におかしくなってしまったとはいえ、初代国王としてルヴィバーを崇拝するイディリークでは、物好きや有志たちが集まってルヴィバーの情報を独自に調べているらしい。
元々は騎士団ではなく兵士部隊に所属していたラルソンは、そうした有志たちとも親睦が深く、そのツテで情報を聞いていたのである。
だが、それを調べるのであればやぐらの守護者とやぐらそのものを片付けなければならない。
「前回と同じ方法で行くか?」
「いや……それよりも強行突破した方がよさそうですよ」
「なんで?」
ラルソンがティラストにそう言うが、ティラストは周りを見渡してそれは無理だと悟った。
なぜなら、今回は集落の近くまで来ていたところまではよかった。
しかし集落の中の状況がよく見えなかったのもあって接近しすぎてしまったらしく、先に敵の方がルギーレたちの存在に気づいてしまったのだとわかったからだった。
即座に集落の中がバタバタと慌ただしくなり、こうなれば確かにティラストの言う通り全員で強行突破しかなかった。
「背後や死角からの奇襲に注意しろ!」
ヘーザは自分の部下を含めた、ここに一緒に来たメンバー全員に注意を促す。
今回の舞台は跡地になったとはいえ、集落の建物がまだ残っている場所の中にやぐらが設置されている。
前回はなかなか開けた平原の中での戦いだったのだが、今回はその残された廃墟の建物が遮蔽物となって敵も味方もそれぞれ身を隠しやすい状況ができてしまっている。
なのでヘーザが言う通り、背後からいきなり襲われたり死角から突然攻撃されたりするのが一番怖いシチュエーションだ。
「ルギーレ、前に出すぎちゃだめよ!」
「わかってるよ!」
そう言いながらも、いつもの癖で前に前にと出ていきたがるのがルギーレ。
事前の準備はしっかりするのに、戦いのことになると頭を使って考えないので、ルディアはこの男の精神構造に疑問を持つことがある。
(前にも感じたけど、頭がいいのか悪いのかわからないわね。それかもしくは単純に、準備だけちゃんとやるタイプ……?)
しかし、そんな彼女もルギーレの行動が気になりすぎて弓で狙われているのに気づいていなかった。
それも今回は目標物のやぐらの上から狙ってきているので、彼女でなかったとしても気づくのが遅れただろう。
「……っ!?」
「危ない!」
ルディアの横を矢が掠めていく。さすがにやぐらのてっぺんからでは距離がありすぎて狙いがブレたのだろう。
とっさにヘーザがそのやぐらの上に向かって矢を放つものの、彼の使用する短弓は飛距離があまり伸びないタイプなので、やぐらのてっぺんまでは届いてくれなかった。
(くっ、この弓じゃダメか!!)
ならば部下の誰かから長弓を貸してもらおうとするが、混戦状態になってしまった集落の内部ではそれも叶いそうにない。
だが、その一連の流れを見ていたローレンが彼の代わりに動き出した。
「あんたはルディアを連れて他の敵の討伐にあたってくれ」
「え?」
「私があのやぐらを倒す。届かないのであれば、届くようにするだけだ」
最初のやぐらを崩した時と同じように、今回もそのやぐらを崩す。
前回は主犯のエイレクスを倒してからやぐらを倒したが、今回はやぐらを倒してから敵を倒す逆パターンである。
それを実行するローレンだったが、その一方でルディアは集落の建物の中の一つから妙な気配を感じ取った。




