203.やぐらの守護者
その爆発を境に、次々と魔術による攻撃が始まった。
周囲の空気に緊張が走り、黒煙が上がるのを視界に捉えた兵士たちが次々に戦闘配備をとって、いきなりの敵襲に対応する。
しかし突然の敵襲であったことにより、即座に対応できないまま次々と倒されていくやぐらの防衛者たち。
イディリークの三人衆は、パルスが短剣と魔術を駆使して戦い、ラルソンはロングソードをふるい、ローレンはハルバードを振り回して敵を薙ぎ倒して進んで行く。
シュソンは自分が隊長を務めているだけあってロングバトルアックスの扱いは手慣れたものであるし、ロサヴェンとティラストの傭兵コンビは息の合ったコンビネーションを見せて、お互いの背中を守りながら行動する。
ルディアもルギーレも魔術とレイグラードを駆使して戦い、ヘーザ率いる連隊の隊員たちは弓を中心として援護する。
その戦法によって、やぐらの周囲を固める人員の厚みが少しずつ薄くなっていったのだが、それでも抗い続ける人物が一人いた。
「ふっ!」
「っ!?」
自分に課せられた命はこのやぐらの防衛であり、いつ来るかわからない敵襲に備えていたとはいえ、余りにもその相手が強いので自分が出ていくしかなかった。
ひとまず、自分のすぐ近くで仲間たちを討伐しているラルソンに向かっていくのが、緑髪のロングバトルアックス使いであるエイレクスだった。
「くっ、なんだお前は……!?」
「それはこっちのセリフだ。お前たち、よくもやってくれたな」
ルギーレやルディアは彼のことを知っているが、ラルソンは彼と対面するのが初めてである。
それでも一度こうして対峙しただけで、武器の扱い方を見る限りなかなかの実力者だと察するラルソン。
「あんたがここのリーダーだな。ならばさっさとこの巨大なやぐらを解体するんだ」
「そうはいくか。お前たちのせいでこれからの計画が丸つぶれになっては困る!」
ラルソンが使っているロングソードよりも、圧倒的にリーチで優位なロングバトルアックスは彼を寄せ付けない。
縦横無尽に襲い来るその刃を何とか回避しつつ、反撃の機会をうかがうラルソンだが、最初に感じた通りかなりの実力を持っているこのエイレクスに対して勝つのはなかなか難しいと思い始めている。
(誰なのかはわからないが、俺だって副騎士団長なんだ。ここでむざむざ負けるわけにはいかないんだよ!)
他のメンバーは多くの敵たちと戦いを繰り広げているだけあって、援護は期待できない。
となればここは自分一人で決着をつけるべきだ。
まともに向こうの攻撃を受ければ、自分が使うロングソードはその文字通り叩き切られてしまう。
槍使いとのバトルであればロングソードで槍を叩き切ることができるが、分が悪いこのバトルをどう制するか?
自分が勝っていると思うのはスピードだけだ。
「ふうあ!」
「ぐっ!?」
風を切って迫りくる凶刃が、ラルソンの身体ギリギリを掠める。
その疾風のような一撃は狙いこそ外したものの、ラルソンの後ろに鎮座している大きな岩にザックリと切れ込みを入れるほどである。
もし今の一撃が自分に当たっていたら、岩の状態が自分の状態だったのだろうと思わず身震いしてしまうラルソンに対し、エイレクスは素早く岩から外した獲物で再び襲い掛かる。
しかしラルソンは、それを何とか利用できそうな部分があるのに気が付いた。
(一か八かだが、やってみるしかない!)
再びロングソードを構えてエイレクスを迎え撃つラルソンだが、やはり防戦一方。
隙を見ては反撃するものの相手はなかなか防御も回避も上手く、ジリジリと後ろに下がり、ついにはこの襲撃の最終目標であるやぐらのそばまで追い詰められてしまった。
「くっ!?」
「終わりだああっ!!」
何度目になるかわからない攻撃を回避したラルソンだったが、回避した先がまずかった。
ラルソンの身体はやぐらに当たってしまい、しかも予想以上にこの戦いで体力を消耗してしまったのか足がもつれ、地面に倒れてしまったのだ。
それを見逃さず、エイレクスは獲物を縦に振り下ろす……が、それがまずかった。
「あっ!?」
「おらっ!」
「ぐうあ!?」
勝負は一瞬で大逆転の様相を見せた。
ラルソンばかりに気を取られていたエイレクスは、自分が護っているはずのやぐらに自分自身で衝撃を与えてしまったのである。
全力で振り下ろされたバトルアックスはやぐらにたたきつけられ、硬いとは言えども先ほど叩き割った岩よりも脆い木材を中心に組まれたそのやぐらの支柱を叩き折ってしまった結果、ラルソンと同じくやぐらもバランスを崩して倒れてきたのだ。
しかもラルソンがそのやぐらに気を取られているエイレクスの腹から背中に向かってロングソードを突き立て、素早く引き抜いてやぐらを回避したことにより、エイレクスだけがやぐらの下敷きになって絶命するという結末を迎えたのである。




