202.第一のやぐら
そのヘーザから、実は……とこれから向かうやぐらに関して新たな情報が寄せられる。
「我が国でもやぐらの情報をあなたから聞いた後、独自に調査を進めていたのですが、その過程で気になることがわかりまして」
「気になることって?」
「魔力についてです。王都であるベルトニアの地下から数日前、異常な魔力が感知されるようになりました。その魔力についてこちらで調査を進めましたところ、そのやぐらの方に向かって魔力の通り道ができていることがわかったんです」
「それはつまり、魔力がやぐらに供給されているってことか?」
「そうでしょうね。そうとしか考えられません」
ヘーザと同じく魔術に詳しいパルスも同じことを考えていたらしいのだが、それがわかったとなればベルトニアの中にもやぐらを建てた人間の知り合いがいるようである。
「となれば……やぐらを破壊するだけでなくやぐらを造った張本人を倒さなければ、また別の場所にやぐらを建設されて同じことの繰り返しかもしれないな」
「ええ。ですが、まだその人物は特定できておりません」
ローレンが掲げる最終目標に、ヘーザは現在の調査状況を伝えておく。
これまで手に入れた情報からすると、前にこの国を治めていたヴァンリドという「元」国王とその部下が真っ先に疑わしい人物として浮かび上がってくる。
そしてそれにプラスしてニルスやウィタカー、マリユスなど今までの旅路でさんざん因縁を作ってきた連中の顔も思い浮かんでくるので、どんどん敵の勢力は拡大しているようだ。
ならば、その勢力を少しでも縮小させるべく一行は一つ目のやぐらがある場所へとたどり着いた。
「やっと着いたけど……一般人の気配がないだけあって派手にやってるね」
「本当ですね。大胆不敵というかなめ腐っているというか、やりたい放題もいいところですよ」
シュソンの隣でルギーレは呆れと驚きが混じったリアクションをする。
なんせ、その櫓というのが地上からの高さで十メートルほどもあるので、これだけ大きいと遠くからでも見つけやすいはずである。
その周辺にはやぐらを護るために配備されているのであろう、様々な色のコートを着込んでいる人間たちと、黒ずくめの服装の人間たちが入り混じっている。
「僕が調べたところによれば、あの色とりどりのコートを着込んでいるのが、前国王のヴァンリドが従えている「旧」ラーフィティア王国の連中だそうだ」
そしてあの黒ずくめの人間たちは、バーレンを襲撃したというバーサークグラップルだろう? とルギーレやルディアに向かって問いただせば、二人はうなずくしかなかった。
「そうです。あの連中はどこにでも湧いてきますね」
「私たちの行く先々であの連中が出てくるもんですから、本当にしつこいというかどれだけの戦力を持っているのか得体がしれません」
「そうか……でも、ちょっと数が多すぎるね。このまま突っ込んでも僕たちがやられる可能性があるから……何か作戦を立てよう」
こちらもそれなりの人数と実力を備えており、さらにヘーザというこの国の騎士団の連隊長が率いる部隊が一緒にやってきたとはいえ、敵もあれだけ大きなやぐらを建てて護れるだけの人員確保のためだろうか、それなりの人員を用意しているようだ。
ざっと見た限り、やぐらの周辺にキャンプを張ってテントまで設置して物々しい雰囲気を醸し出しているのは百人ほど。
「こちらは余り大人数だと動きにくいので、私の部下たちは二十人ほどです」
「二十人か。じゃあ僕たちを入れておよそ三十人ほどだね」
三倍ちょっとの差があるこの戦力をひっくり返すには、ルギーレの持っているレイグラードとそれぞれの今までの経験や実力を使わなければならない。
そしてこういう時にこそ戦術が大事になるということで、戦術に関してはお粗末なルギーレを除いて手早く話し合いが行われる。
「……うん、それがちょうどいいんじゃないかな」
「ちょっと危険かもしれないけど、それで相手をかく乱して背後から一気につぶしましょう」
「それではティラストと俺が囮になるから、つぶす作戦は任せたぞ」
話し合いの結果、ロサヴェンとティラストが迷い込んだ冒険者を装って敵の目の前に出ていく。
一見すると自殺行為なのだが、これもちゃんとした作戦の範囲だ。
「おい、お前たち何者だ?」
「あ……ええと、ちょっと道に迷っちゃったんですよ。ここはどこですか?」
「ここはラーフィティアの南西部、ユセフェルトだ。わかったらとっとと立ち去るんだな」
最初に二人の存在に気が付いたカラフルなコート集団の中の一人に対して、冒険者と偽った二人が対応する。
そして、突然現れた冒険者地の存在に気が付いた他の連中もまた
「そうなのか。あんたたちは何者だ? 俺が見る限りどこかの軍隊みたいだけど、ラーフィティアの連中か?」
「ああそうだ。今は野外訓練の真っ最中だから、訓練の邪魔をしないで早く消えろ!」
「なんだ、乱暴な男だな。でも……その乱暴には乱暴で対抗しないとな」
「なんだと?」
ロサヴェンのセリフを訝しんだ男の耳に、野営地の別の方から派手な爆発音が響いてきた。




