200.ラーフィティア王国の異変
「あなたがバーレン皇国の斧隊の隊長のカティレーバーさんですか?」
「そうだ。よろしく」
ルギーレとルディアの目の前に立つのは、やけにすらりとした背の高い男である。
イディリークを出発する前にリュシュターやモールティから説明を受けた通りの外見を持ち、痩せ身のその体躯で振り回すにはきついのではないかと思わざるを得ないロングバトルアックスが彼の武器だ。
服装は緑と茶色を基調とした色合いの冒険者然としたいで立ちであり、パッと見た限りでは彼がバーレンの騎士団の隊長を務めているなどとは思えないだろう。
そして、彼の部下であるファルレナから聞いた通りその雰囲気にはどこか警戒心が表れているのもわかったので、ルギーレもルディアも一定の距離を置くようにしてまずは自己紹介。
「よろしくお願いします。俺は冒険者をやっていますルギーレです」
「同じく冒険者のルディアです。それからええと、こちらの方々が……」
「ああ、そっちの人たちなら僕がすでに話を受けているから紹介は結構だよ」
ルディアがイディリークの三人を紹介をしようとしたのを手で制したカティレーバーは、自分のバトルアックスを手にして歩き出した。
「さて、それじゃあ僕がこれから先を案内するからついてきてよ」
「は、はあ……」
なんだか自分のペースに持ち込みたい人なのかな? と首をかしげるルディアだが、今はなんにせよこのカティレーバーについていかないとラーフィティアの現状もわからないだろう。
一行はカティレーバーの先導によって、まずこのラーフィティア国内のバーレンにほど近い町の中にある集会場の一室に足を運んだ。
「ここならゆっくり話もできるだろう。タダで場所を貸してくれるからな」
そう言いつつ、用意された長テーブルの一角に座ったカティレーバーに続いてルギーレたちも話を聞くべく椅子に座った。
「じゃあ改めて、僕がこのラーフィティアに入ってからの話をしようか」
カティレーバーがいうには、彼がこのラーフィティアに入国したのが二月ほど前。
皇帝のシェリスから、最近ラーフィティア側で起こっているという奇妙な現象を確認してほしいとの命を受けた彼は、単独でこうやって乗り込んで調査を進めていたのである。
「それでだね、いろいろと調べていくうちにラーフィティアの中である事がわかった。どうやらこのラーフィティアを取り戻そうとしている連中がいるらしいんだ」
「取り戻す? 誰が?」
「この王国を前に治めていた人物がいるんだよ」
「え……それってもしかして、あの暴君と呼ばれたヴァンリドか!?」
疑問の声を上げたローレンに、カティレーバーはしっかりとうなずいた。
「そう、あの男がこの国に戻ってきたんだ。さすがに王国が滅亡してしまったこともあって今の部下は全然いないが、本人の強さは今でも健在らしい。バーレン側で起こっていた奇妙な現象というのは、彼が何者かから援助を受けて勢力を拡大していることだったんだ」
「援助? 勢力拡大?」
それってどういうことなんだ、とラルソンが話の続きをせかすが、実のところカティレーバーもそこまで詳しくは調べ切れていないのだという。
「それが詳しいことはまだわからないんだよ。すまないが、僕は密偵活動は専門外でね。手の空いていたのが僕しかいなかったからこの国に派遣されたんだけど、これから先はそれを調べるのを手伝ってほしいんだ」
「調べるって言われても、今あるだけの情報をくれないと俺たちも動きようがねーんだけど」
当たり前だよなぁ? という態度をプンプンさせるパルスに、苦笑いを浮かべながらカティレーバーが答える。
「そうだね。今わかっているのは、このラーフィティア全土で何か兵器の実験をしているってことだ」
カティレーバーが調べを進めたところによれば、人気のない辺境の地でやぐらみたいな物を建造してラーフィティアに対して何か実験を行っている連中がいるらしいのだが、そのやぐらに近づこうとしても見張りがすごくて調べられていないのだという。
ただし、それらがある場所はわかっているので、そこを順番に回りつつ何が起きようとしているのかを確かめる必要があるのだ。
「ここはそのヴァンリドが治めて居たとはいえ、彼がいなくなってしまってからは荒れ果てた王国になったからね。得体のしれない連中がのさばるのも当然かもしれない」
「そうですね。それで、まずはどこに行くんですか?」
「この近くに一つ目のやぐらがある。まずはそこから調べてみよう」
質問してきたルギーレにそう言いながら、カティレーバーは事前に用意しておいた地図を一枚ずつメンバーたちに渡していく。
しかし、その質問したルギーレとルディアは敵の正体にうすうす感づいていた。
(絶対、あのウィタカーの連中がいるよなあ……)
(これはバーサークグラップルとか勇者パーティーの臭いがプンプンするわね)
今までの経緯から絶対その連中が絡んでいるだろうと考える二人だったが、その予想が果たして当たっているかどうかはまだわからないので、再びカティレーバーの先導で一つ目のやぐらの場所へと向かうしかなかった。




