199.こっちもメンバー交代
セルフォン曰く、今回ルディアを助け出しに向かったのは、今のルギーレたちの力ではどうしても救出が無理だと判断した結果の「特別措置」らしい。
本当であればこれも人間の歴史に介入することになってしまうのだが、助けに向かった霧の島には大きな脅威があるらしい。
「それって、あのニルスがあそこにいるってことですか?」
「いや……そなたたちの話を聞く限りではそいつは某の相手ではないだろう。某が言っているのはもっと大きな……某たちのリーダーだ」
「リーダー……?」
「ああ。あ……すまん、呼ばれてしまったから行かなければならない。また何か用事があったら魔術通信で呼んでくれ。そなたたちへの協力はそれしか無理だ」
人選とこれからについて話し合いをしているイディリークの面々と、もう少し身体を休めているルディアを残して、ジェディスとともにセルフォンを勧誘に来たルギーレはガックリと肩を落とした。
「くっそー……あのドラゴンがいたらこれからの俺たちは苦労しなくてすみそうだってのに……」
「仕方ないさ。俺は引き続き一緒に行くんだから、それでいいじゃねえか」
だが、ルギーレを慰めていたジェディスの魔晶石に通信が入る。
こんな時にいったい誰だと思いながら出てみると、それは彼の国の宰相であるジェリバーからだったのだ。
「ジェリバー様……いかがいたしました?」
『ケレイファン副長、今すぐにヴィルトディンへの帰還をお願いいたします』
「えっ、どうしたんですかいきなり……!?」
なんと、それは突然の帰還を命令だったのだ。
何がどうなってそうなったのかわからないジェディスに、ジェリバーからその理由が伝えられる。
『実は国の南側で魔物が大量発生しまして、ザリスバート団長の采配だけでは手が回らなくなってきているんです。また、魔物の被害と並行して土砂崩れが発生しまして……至急ケレイファン副長の助けが必要なんです』
「わ、わかりました!!」
最悪だ。
このタイミングでジェディスがヴィルトディンに呼び戻されてしまい、これからはイディリークの面々だけと一緒に行動しなければならないらしい。
ルディアも最初は同じだったとはいえ、知らない人間ばかりが多数入っているパーティーができるのはなんだか気が引けてしまう。
だが、自分の国に戻って活動するのは騎士団員としては当たり前なので仕方がないと割り切ったルギーレは、そのことを報告するべくリュシュターたちの元へ向かう。
するとそこで、宰相のモールティからさらに戸惑う話がされることになった。
「……というわけでして、俺もルギーレたちとはここまでになります。
「わかりました。しかし、ちょうどいいタイミングでもありました」
「ちょうどいい?」
何がちょうどいいのか?
それは、これから向かうラーフィティア王国における行動予定の話だった。
「実は先ほど、バーレンから連絡があったんです。現在、ラーフィティアで活動中の斧隊のカティレーバー隊長と合流するようにと」
「斧隊って、確かヴィルトディンに密偵で行っていたファルレナさんが副隊長として所属している部隊ですよね」
「それです。前にも少しお話があったかと思いますが、その斧隊のカティレーバー隊長が現在ラーフィティアにいらっしゃいますので、こちらから彼と合流して内部のお話を聞いてください」
どうやらまた新しい人間と出会うようだが、その人物はバーレンから来ているということで今までと違い、全く無関係の人間ではなさそうである。
しかし、少しでもその人物の情報が欲しいルギーレとルディアは夕食をご馳走になった後、以前世話になった同じ斧隊のファルレナに通信を入れる。
『えっ、カティレーバー隊長と合流するの?』
「そうなんです。ですから、バーレン皇国の中で一番その男の人と関係が近いファルレナさんにお話を伺おうと思いまして」
しかし彼女から出てきたのは、自分の上司に対するルギーレとルディアの接し方についての話だった。
『カティレーバー隊長はとにかく警戒心が強いわね。初対面の相手には一歩引いた感じで接するタイプなのよ』
「そうなんですか。じゃあ、馴れ馴れしい態度は特に禁物ですね」
ファルレナが知っている限りの話では、カティレーバーはその昔、初対面の相手にいきなり殺されそうになったことがあるのだという。
相手が信用できる人間とわかれば打ち解けるらしいが、信用できないとわかった場合はよそよそしくなるのだという。
『だから最初は隊長もよそよそしいと思うけど、そういう性格だから気にしないでね』
「はい、わかりました」
『一応、隊長にはすでに連絡は入っていると思うけど私からもしておくわ。そうすることで少しでも警戒心が解けると思うわよ』
ファルレナに言わせると、緑色の髪の毛に水色の瞳を持っている優男風の見た目だが、両手で扱う大きくて長いバトルアックスを軽々と振り回せるほどのパワーの持ち主だとの情報だ。
そのまだ見ぬ斧隊の隊長と合流するべく、一行は準備を整えてから翌朝ラーフィティア王国に向けて出発した。




