195.救出失敗
ルギーレが目を覚ますと、まず目に飛び込んできたのは知らない白い天井。
そして少し顔を動かしてみれば、自分の周りにいるのが顔見知りの面々ばかりだとわかった。
どうやらベティーナとの戦いの後で意識を失ってしまった自分は、どこか別の場所に運ばれて寝かせられているのだと理解した。
「あっ、気がついた!」
「おいルギーレ、大丈夫だったか?」
「あ、あれ……ここは?」
「シューヨガの町の宿屋だ。いったい何があったんだ?」
「目が覚めたばかりで悪いが、繋がっていた魔晶石の通信だけではわからないこともあるから、何があったのか俺たちにも説明してくれないか」
「あー……わかりました」
ロサヴェン、ジェディス、ジャックスにそう言われて、ルギーレは洞窟の中でベティーナと戦った一連の流れを話した。
「じゃあ、あの時に私たちが見たワイバーンはその元仲間のものだったんですね」
「そうですね。逃げられちまった……ルディアも救出に失敗しちまった……」
もしかして、俺が素直にあのクソ女に殺されていればルディアが戻ってきたのか?
ルギーレがポツリとつぶやくが、それに最初に反応したのがヴィンテスだった。
「馬鹿、それじゃルディアが喜ぶわけないだろ」
「……」
「話聞いてると、相手は頭おかしい奴らばっかだ。いろいろ兵器開発したり、今回みたいに爆弾を町の中で爆発させたり、やりたい放題じゃないか!」
「俺もヴィンテスと同じ考えだ。仮にお前が死んだって、レイグラードだけ取られて終わりだったとしか思えない。ルディアも殺されていた可能性が高い」
ヴィンテスとジャックスのセリフを聞き、それもそうか……と納得するルギーレだが、どちらにしてもルディアの現状がわからないままになってしまった。
恐らく魔晶石も没収されて通信を入れて来られない状況の上に、向こうで拷問を受けていたり慰みものにされている可能性だって否定できない。
どうにかして所在や今の状況がわかればいいのだが、ベティーナの行き先のヒントが何もない以上、その答えを掴むのも難しかった。
「参ったな……そもそもどうやってあの連中にルディアが誘拐されたのかもわからないままだし、どーすりゃあいいんだこの状況よおおおおおお!?」
絶叫しながら頭を抱えるルギーレだが、話の流れは唐突に変わってくれた。
それは、ルギーレをここまで運んでくれた一人であるジェディスの魔晶石に通信が入ったことが始まりだった。
「ジェディスだけど……あっ、シェリス陛下!?」
『ああ、ヴィルトディンのジェディスだな。今、ちょっと時間あるか?』
「はい、大丈夫ですけどいかがなさいました?」
バーレンの皇帝シェリスからの突然の通信に戸惑いを隠せないジェディスだが、話の内容はその戸惑いをさらに大きくさせるものだった。
『うちの斧隊の隊長がさ、今ラーフィティアの方に行っているんだけど……そこで黒いワイバーンに乗った人影を見たって連絡があったんだ』
「えっ、それっていつ頃の話ですか?」
『数時間前だよ。そいつの話によるとイディリークの方から飛んできたって話だったから、ルギーレが倒れたこととその逃げたっていうベティーナと何か関係があるんじゃねえかって思って連絡したんだ』
「数時間前……わかりました。そのワイバーンってどこに飛んで行きました?」
その飛んで行ったワイバーンは、もしかしたらベティーナの乗っているものだったのかもしれない。
行き先次第によってはイディリークを出なければ行けなくなるだろうが、石の向こうから聞こえてきたのはシェリスの戸惑う声だった。
『いやーそれがさぁ、北の方に向かって飛んでったって話だったから、そっちのリルザ陛下に連絡をとって目撃情報を集めたんだけど、何もそんな目撃情報なんて入ってないって話だったんだよ』
「えっ、でもラーフィティアの北となると我が国なのですが……そんな大きなワイバーンが飛んでいたら目撃情報が一つや二つ入ってもおかしくないと思いますけど」
『俺もそこが引っかかっててさ。もしかしたらヴィルトディン方面には向かわないで、西に飛んでシュアかアーエリヴァかヴィーンラディに向かったかも知れねえな』
この世界は東西南北がそれぞれつながっており、例えばこのイディリークの西に向かって飛んでいけば、陸地だと遠く離れているヴィーンラディの東の陸地に到着できる。
ラーフィティアからヴィルトディンを超えてさらに北に向かって飛べば、今度はそれこそこのイディリークの帝都アクティル近くに戻ってくることだってできる。
しかし、そのワイバーンの目撃情報がないとなればシェリスの言う通り、海を超えて西へ向かった可能性が高い。
だったら自分たちも船やワイバーンを使って西に向かってみようかと考えるジェディスだが、その前にまだこのイディリークの中でやるべきことがあるらしい。




