194.任務失敗
「失敗しただあ? お前ほどの人間が、こんな大事な任務を失敗しただあ!?」
「ぐえ!!」
帰還したベティーナの腹に、容赦のない蹴りが叩き込まれる。
蹴りを叩き込んだ側のウィタカーは、ベティーナがルギーレに敗北するというまさかの現実を受け止めきれないまま、彼女に当たり散らすしかなかった。
「それでもAランクの冒険者かよぉ!? てめぇ、ここ出ていく時に俺にさんざん言ってたよなぁ? あんな奴なんてすぐにぶっ殺して、楽勝でレイグラードを奪ってきますってよぉ!!」
「げはっ!!」
「なのに何だ、この体たらくはよぉ? 爆弾使って操るところまではよかったよ。それで上手くおびき出してタイマンの状況作り出して、確実に仕留めるつもりだったってーのに、こうして帰ってきてみればレイグラードは奪えなかったわ、あいつもまだ生きてるわでまた手間が増えちまったじゃねえかよ!!」
「ぐぅぅ!!」
二回、三回と蹴りの回数が増えて確実にダメージを入れられるベティーナだが、実際にこうして失敗して何も成果なしで帰ってきてしまったのだから、反抗する気も起きなかった。
だが、それを見ていたマリユスがさすがにこのままではまずいと判断して、ウィタカーの肩に手を置いて止めにかかる。
「おい、少し落ち着け。八つ当たりしたい気持ちもわかるが彼女だって精いっぱい頑張っただろうに」
「あ? 頑張っただあ? 頑張った結果がこれかよ。何も出来ねえ無能はどっちだよクソが!!」
取りなすマリユスの言葉にも耳を貸さないウィタカーを見て、カチンと来てしまったベルタが止めに入る。
「ちょっとぉ、無能ってのはひどくないかしら?」
「無能に無能って言って何が悪いんだよ。あのレイグラード使いは無能なんだろ? だったらそいつに負けたこいつは無能……いや、無能以下じゃねえかよ!!」
「そんなに言うんだったら、今度はあなたが行ってくればいいじゃない!! 今まで協力し合ってちゃんとやってきたのにさあ、仲間が失敗してもそれをフォローするのが真の仲間でしょう?」
すると、そのベルタのセリフに違和感を覚えたバーサークグラップルの金髪の弓使いロークオンが、それはお前たちの方だろうと突っかかり始めた。
「あんたたちが言っていいセリフじゃないぞ。現にあんたたちはその失敗した役立たずを追放していい気になっていたんだろう?」
「う……そ、それは……」
「それに、役立たずを追放した後の任務を失敗してうちに拾われたんだから、少しは恩人に対するその態度を改めたらどうなんだ?」
ロークオンの意見は確かにそうなのだが、今までパーティーに迷惑をかけてきた回数としてはこのベティーナの失敗よりもあの役立たずの方が多いんだ、と口数の少ないリュドが反論する。
「恩人というのは間違っていないわ。でも、今は仲たがいしている場合じゃないと思う。少なくとも、今回のベティーナの失敗はかなり珍しい……というかここまでの失敗は私がベティーナと出会ってから初めて見たわよ」
「初めてだろうが十回目だろうが、失敗したことには変わらねえだろ。どーすんだよ、この結果をニルスに報告したら、俺たち何されっかわかんねえぜ?」
でも、失敗して戻ってきたのは事実なのでここはもう覚悟を決めて報告するしかない。
お互いのリーダーであるウィタカーとマリユスが、二人そろってこの屋敷の中にあるニルスの居場所へと向かった。
「……ふぅん、失敗したってねえ」
「申し訳ございません。俺たちからあのベティーナにはきつく言っておきますし、今度は俺たちが出撃します」
「俺からもお願いします。俺たちが、今度はちゃんとレイグラードを奪ってきます」
マリユスとウィタカーが頭を下げるが、ニルスはそんな二人を見て予想外のことを言い出した。
「いや、別にやんなくていいや」
「え?」
「ベティーナの失敗は確かにまずいけど、それよりも面白い情報があっただろう。レイグラードを使っていたルギーレが、いきなり強くなったってその話……実に面白いじゃないか」
そう言いながら椅子から立ち上がったニルスは、二人の目の前に来て後ろで手を組んで命じる。
「とりあえずさぁ、あいつを尾行しておいてよ」
「尾行ですか?」
「うん。とりあえず隠密行動が得意なのだったら誰でもいいから、レイグラードに関して何かしらの情報が手に入るかもしれないでしょ? まだ人質もこっちにいるんだし、殺そうと思えばいつでも殺せるんだから。だから何かわかったら私にすぐ報告すること。いいね?」
「は、はい!」
予想外のリアクションだったとはいえ、どうやらお咎めはこれで済んだらしい。
せっかくあの村の出入り口の見張りを大金で買収して、ルディアを誘拐してきたのもあってこれ以上の失敗は許されない。
ならば誰をあのレイグラード使いの見張りにするか?
リーダー二人は部屋を出ながら、その人選を話し合い始めていた。




