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18.模擬戦

 聖剣と思わしきロングソードとともに、城の敷地内にある鍛錬場へとやってきた一行。

 ここで衆人環視の中、騎士団長と副騎士団長を相手にしてルギーレの模擬戦が行われる。


「成り行きでここまでやってきたけど、あんなにすごい人たちを相手にしてあなたは勝てるの?」


 心配そうにルギーレに耳打ちするルディアだが、当の本人はもっと心配である。


「いやー、ほら……さっきも言ったけどさ、俺があの剣を使ったらすげえことになっただろ。あの地下しかり洞窟しかり。俺、まだあの剣を使いこなしてねえから怖えんだよなあ」


 ポジティブな考えでウジウジ悩まない性格が身上のルギーレだが、今回のこのシチュエーションとなれば話は別である。

 相手が相手だけに本気で来る可能性もあるし、対抗するために本気で戦うのならそれこそ本当に殺してしまう可能性があるのだ。


「でも、ここまで来たらやるっきゃねえよな。なんとかやれるだけやってみるさ」


 腕をグルグルと回してウォームアップを終えたルギーレは、皇帝からあの剣を受け取った。

 するとその瞬間、周りの空気が一気に変わったのが分かった。


「うっ……!?」

「うわ、すごい魔力!!」


 ウェザートとロラバートが驚きを隠せない。

 あの宿の前で二人を連行した時にはこれほどの魔力は感じられなかったはずなのに、今はどうしてこれだけの魔力が肌にまとわりつくような感触を覚えるのだろうか。

 だがそれ以上に驚いているのは、これから戦うザドールとユクス、そしてロングソードの感触を確かめていたディレーディである。


「くっ、これは!?」

「魔力が荒れ狂ってるな。こりゃあ恐ろしい力だぞ!!」

「なんだこれは……我が触ったときには何も起きなかったはずなのに!?」


 まるで暴風が吹いているかのごとく鍛錬場にあふれる魔力に、この場にいる全員が恐ろしさを覚えている。

 そんなロングソードを使うルギーレと、騎士団のトップの二人とのバトルが幕を開ける。


「いいか、相手を殺すのは無しだ。審判は我が務める。危険だと思ったら即座に止めるからな。この屋外だし、思いっきり戦ってみろ」

「わかりました……」


 本当に大丈夫なのかと今まで覚えていた不安がピークに達しそうになりながらも、皇帝直々の要望とあれば断ることもできないルギーレは、覚悟を決めてロングソードを構えて騎士団の二人と向かい合った。


「じゃあ行くぜ!」

「よし……どこからでも来てみろ!」

「ユクス、二手に分かれて挟み込むぞ」

「それでは……始め!」


 ディレーディの合図とともに、騎士団の二人は小声で話し合った通りに左右に分かれてルギーレに的を絞らせないようにする。

 一方のルギーレはこうした対人戦に関しては、実はあまり経験がない。

 勇者パーティーでは主に魔物を対象に世界中で活動していたし、剣術のトレーニングをしようにも彼はランクが低かったゆえにロクに仲間たちに相手をしてもらっておらずに雑用ばかりをさせられていたのだ。

 だからこそ、ここはもう自分のやれるようにやってみるしかないとルギーレは剣を構えて走り出した。


「うおおおおおおっ!!」


 まずはザドールに向かって大きなモーションで剣を振り上げ、思いっきり振り下ろすルギーレ。

 それをザドールが自分の愛用するハルバードで受け止め、ルギーレに蹴りを入れてから反撃をする……はずが。


「ぬおっ!?」

(あれ?)


 ルギーレも目いっぱい力を入れていたとはいえ、なんとそのままザドールが足を滑らせてしりもちをついてしまった。

 いや、正確には力負けをして後ろに倒れてしまったというのが正しいだろう。

 体格的にはあまり変わらないはずなのに、そんなに力負けしてしまうのだろうかとルギーレは首を傾げつつ、ザドールの腹を足で踏みつけてダメージを与えておく。

 その瞬間、ヒュンと後ろから音が聞こえてきたのでルギーレは反射的に右斜め前へ飛んだ。


「……!」

「くっ!?」


 ユクスがルギーレの背中に矢を放っていたのだ。

 もちろん致命傷を負わないように先端を丸くした矢を使っているのだが、もし背中に当たっていたらその時点で負けを宣告されていたかもしれない。

 矢をとっさの判断で回避したルギーレは、起き上がってこようとするザドールに再度蹴りを入れておき、今度は地面に剣の先端をかすめるような軌道で斬撃を繰り出す……と。


「うおおっ!?」


 地面を斬り割いたその魔力が衝撃波となり、そのままの勢いで砂煙を上げながらユクスに一直線に向かっていく。

 だがユクスも驚きはしたものの、歴戦の猛者だけあってその衝撃波を横っ飛びで回避。

 そこから地面を転がって起き上がった瞬間、今度は身体全体に衝撃を受けて地面へと倒れこんだ。


「うおらっ!」

「ぬあっ!?」


 その回避行動を視界に捉えたルギーレがユクスのほうに走り出し、起き上がったばかりのユクスに全力のタックルをかましていた。

 さすがに剣で刺すことはできなかったが、それでもかなりのダメージをユクスに与えることに成功。

 それと同時に、ルギーレは自分がこの剣を握った時の能力に驚きを隠せなかった。


(見える……いつもより周りの時間が遅く見えるんだ!!)


 ユクスがどっちに飛ぶかなんて普通はわからない。

 しかし彼が飛んだ瞬間も、それから地面を転がるところもすべてルギーレには見えていたので、立ち上がったところにタイミングよくタックルを当てることも可能だったのだ。

 その倒れたユクスの胸倉を()()()()()つかんで引き起こし、剣の柄で頭を殴って気絶させることに成功。

 だがその瞬間、背後に殺気を感じたルギーレが振り向くと、そこには自分に向かってハルバードを突き出してくるザドールの姿が見えた。


(……!!)


 ルギーレは彼の姿を視界にとらえたものの、剣を振っても間に合わないと判断し、とっさにそのまま左回りに振り返りつつ左腕でハルバードの柄の部分を脇に挟み込むことに成功した。


「っ!?」

「っとと、あぶねーあぶねー……」


 そこで決着はついた。

 次の瞬間には、剣の魔力によって筋力も向上したルギーレの挟み込みでハルバードを抜けないままのザドールの喉元に、剣の先端が突き付けられていた。

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