プロローグ.役立たず、追放される
目の前で、豪華な黒い革張りのソファーに尊大な態度で座っている青い髪の勇者様。
そしてその勇者様の目の前に直立不動で立たされている、茶髪に黄色いコートの男。
「ルギーレよぉ、これでも幼なじみだから今までパーティーに入れてやってたけど、そろそろお前は用済みってやつなんだわ」
だからお前はこのパーティーから出て行ってくれよな?
青い髪を持つ勇者のマリユスからそう言われた黄色いコートの男……ルギーレ・ウルファートの表情が、茫然としたものになる。
「……はい?」
「だから、このパーティーにはお前はもういらないんだよ」
「な……なんでだよ? 俺、そんなにみんなに迷惑かけてたのか?」
「当たり前じゃない。自分の胸に手を当ててよく考えてみることね」
ルギーレの左側から声がかかる。
そこに立っているのは後ろでひとまとめにした長い金髪と、鮮やかな緑色でまとめられた鎧が印象的な、少々目つきのきつい女でパーティーメンバーの一員でもあるベティーナだ。
「私だって、マリユスとあなたとは幼馴染よ。でもね、人間だって我慢の限界があるのよ」
「我慢の限界ってなんだよ?」
「はぁ? わからないのかしら? それだからあなたは落ちこぼれなのよ。私たちと実力が釣り合ってないの。実力が!」
「そうよね。私たちは最低でもBランクなのに、あなただけDランクだもんねー」
もはやあきれて棒読みに近い声を出すのは、そのBランクのパーティーメンバーである緑髪の双剣士ライラだ。
「だってあなた、マリユスの幼なじみってだけでこのパーティーにいるだけで、戦闘じゃまるで役立たずだったもんねー」
「うん。そのたびに私たちがカバーしてたのに、いつの間にかそれが当たり前のような空気になってたからもう限界」
ライラと同じ緑の髪を持ち、白銀の鎧をまとっているリュドも口数は少ないながらライラに同意する。
「前線での動きは悪いし、後方支援はそもそも向いてないし、雑用しかできないならこのパーティーにはいらない。私たちだけで十分」
「つまり、ルギーレにはセンスがなかったってことなのよね」
だからおとなしく故郷に帰れば? と提案してきたのは、青を基調とした服装にショートカットの金髪を持つレイピア使いのベルタだった。
「ちょっと寂しい気もするけど、ルギーレが抜けることでこのパーティーの質やランクが上がるのなら、私はマリユスの意見に同意したいわ」
「ちょ……おいおい、何だよみんなして口そろえて!? 俺が役立たずだから追放しようってのか?」
「だからさっきからそう言ってるだろ、このマヌケ!」
「うぐっ!?」
鉄板を靴底に仕込んだブーツでマリユスにスネを蹴られ、思わず悶絶するルギーレ。
皮のブーツしか履いていない彼にとっては思わずうずくまるほどの強さだった。
だが、そんな彼にベティーナとライラとリュドからの精神的な攻撃が加わる。
「あらあら、その程度で痛がるなんて……勇者パーティーの一員が情けないわね」
「くそ……くそっ!!」
「私たちみたいにちゃんとランクを上げられるだけの腕もない、センスもない、おまけに魔術も使えないなんてねー」
「だからあなたはこのパーティーに不要なのよ」
女三人からそう言われ、マリユスから最後のセリフが突き付けられる。
「これでわかったろ。さぁ、早く有り金と武器を置いて出て行けよな。それだってもともとは俺たちのもんだからよ」
「え、いや……それは……」
「これ以上俺に話しかけるな。さっさと金と武器を置いていけ」
しかし、その様子を見ていたベルタが待ったをかける。
「ちょ、ちょっと待った!」
「どうしたのベルタ?」
「武器も有り金も置いていかせるのはきついんじゃないかしら?」
「あら、同情してるの? 優しいのねー」
ライラが憐れむような視線を向けるが、その視線を向けられたベルタは首を横に振る。
「いや、えっとそうじゃなくて……むしろパーティーの信用を落とさないようにしようって思って」
「どういうことだ?」
ベルタはルギーレに有り金と服だけは持たせるように提案する。
「遅かれ早かれ、ルギーレがパーティーを追放されたことは世の中に広まると思う。その時に武器も金もないまま追放したって噂を流されても困るし。だったら実力不足で故郷に帰るようにって促して脱退させた話を、こっちが先に世界中に向かって流しておけば、仲間に対して最後まで慈悲深いパーティーだって言われてさらに評価は上がると思うのよ」
「あー……なるほどね。考えたわねベルタ」
ベティーナがベルタに笑顔を向ける。
しかし、言われたほうのルギーレはさらに愕然としていた。
「お前ら……五年も付き合ってきた俺に対しての言い草がそれかよ!?」
「だからもう我慢の限界なの。この役立たず!!」
「というわけで……そのまま出て行ってね」
「じゃあ元気でねー」
「これで食い扶持が減るわね」
「ほら、さっさと出てけっつんだよ!!」
「ぐはっ!?」
人目につかないように、間借りしている帝都シャフザートのあばら家の裏口から文字通りマリユスによって蹴り出されたルギーレは、裏口にも表口にもカギをかけられたうえ、カーテンも閉められてしまい完全に自分の存在をシャットアウトされてしまった。