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193.限界

「……っ!?」


 オリンディクスを突き出したはずだったのに、それが不自然な姿勢で止まってしまったので、ベティーナは再び何が起こったのか理解できない。

 確実に、目の前にいる男の心臓を狙って突き出したはずの一撃。これが決まればここで勝敗も決し、ルギーレはここで朽ち果ててイディリークの土となっていたはずだ。

 なのにどうして、この男は自分のオリンディクスをしっかりと止めているのだろうか?

 それもレイグラードを使わずに、自分の両手を合わせて拍手をするようなスタイルで挟み込んでいるのだ。


「な……な!?」

「……危なかったぜ。上手くいくと思ったんだろうが、惜しかったなぁ?」


 目を閉じて最大限まで気を集中し、オリンディクスの先端が自分の喉に触れるか触れないかという距離で止めている。

 しかもベティーナがその手の中から槍を引き抜こうとして力を入れても、全く動いてくれないのだ。

 一体その二つの手は、どれほどの力で槍の先を挟み込んでいるのだろうか?

 そもそもこの男は、これほどまでに腕の力があっただろうか?

 ベティーナが混乱しながらも、愛用の魔槍を引き抜こうと思いっ切り力を入れた途端、力を入れすぎてその手の中から槍がすっぽ抜けてしまった。


「きゃあっ!」


 ゴロゴロと後ろに転がったベティーナだが、そのベティーナを追撃もせずにゆっくりとレイグラードを構えなおすルギーレ。

 先ほどとはすっかり形勢が逆転してしまっている。


「どうした、かかってこないのかよ?」

「う……うわああああああああっ!!」


 すっかりなめられている。こうなったらもうヤケである。

 オリンディクスを構え、今までの自分の経験と実力をすべて引き出し、超本気モードで立ち向かうベティーナ。

 こんな奴に負けたくない。こんな奴に見下されたくない。こんな奴に……こんな奴にもてあそばれたくない!

 すべてはルギーレに対しての優越感、満足感、そして追放した相手に負けているという特大の劣等感。

 ふざけるのもたいがいにしろ。

 こんな奴に……こんな奴に私が負けてたまるか。私はAランクの冒険者なんだぞ!!


「死ね、死ね、死ねえええええっ!!」

「…………」


 雄たけびを上げて槍を突き出し、足を払い、さらに蹴りを入れようとするが、ルギーレは最初のころの動きとは比べ物にならないレベルのスピードですべてを回避し、ブロックし、反撃してくる。

 まるで「死ぬのは俺じゃない」とでも言いたげなニヤニヤした笑みを浮かべているので、これではどちらが悪役かわからない状況だ。

 このまま追い詰められていくのは自分の方だと思い始めたベティーナだったが、だからと言ってここから挽回できるとも思えなかった。

 もう限界が近い。決められないなら……。


「おっ……覚えてなさいよ!!」

「は?」


 逃げる。これしかない。

 確かに悔しい。みじめだし屈辱感であふれている。だが、今の自分ではこの役立たずにかなうはずがない。

 こうなったらレイグラードを手に入れるのは後回しだ。

 まずはルディアを殺して、ルギーレたちに特大の絶望感を覚えさせた後に改めてレイグラードを手に入れる。

 それしか方法がないのだが、そんなベティーナをルギーレが逃がすはずもなく捕まえるために走り出す。


「おい、待ちやがれこのクソ女! 散々俺を馬鹿にしておいて逃げてんじゃねえぞ!!」

(聞こえない、知らない!!)


 何も聞こえてませんよー、というスタンスを貫いて逃げることを最優先にするベティーナは、洞窟から出て懐から取り出した黒くて細長い笛を取り出し、それを思いっきり吹き鳴らす。

 通常の笛とは違った音色を奏でるその笛は、空から大きな影を呼び寄せるためのものだった。

 バサッ、バサッと翼をはためかせて、笛と同じく黒いワイバーンが空から降りてくる。


「早く飛んで!!」


 笛で呼び寄せたワイバーンに素早く飛び乗ったベティーナは、自分を追いかけてくるルギーレに向かって残っているナイフを次々と投げつける。

 それをレイグラードで弾き飛ばしながら追いかけるルギーレだが、どうしても弾く分のスピードが落ちてしまう。

 それでも何とか追いついて、クソ女をワイバーンの背中から引きずり降ろせる距離……だと思いきや、その瞬間ルギーレにも限界が訪れた。


「……っ!?」


 ドクン、と心臓の鼓動が激しくなったかと思えば、膝を中心として全身からガクンと力が抜け、その場で膝から転んでしまった。

 なんだ、こんな時にいったいどうした?

 目の前にクソ女がいるのに。ルディアのところに案内してくれるかもしれないのに。

 そのクソ女の背中が上空へと浮き上がり、そしてどんどん遠ざかっていく。


「待……てっ、くそ、待ちやが……れ!!」


 必死に伸ばした手は、ただ単に空気を掴んで虚しく宙を切るだけに終わる。

 さらに頭がクラクラしてきたルギーレが、意識を失う前に最後に見たものは、自分の方に向かって駆けてくる二つの人影だった。

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