191.実力差
その事実を噛み締めながら、ルギーレはベティーナにレイグラードを振りかざす。
右、左、右、上、下。
スピードよりも正確性を重視したその剣術で、ベティーナに攻撃を当てようとする。
だが、ベティーナもオリンディクスを振り回して簡単にやられはしない。
そもそも、レイグラードがあってもこの女に勝つには難しいとルギーレは思っているし、ベティーナもこの役立たずに負けるわけがないと思っている。
(マリユスのドライデンに負けてしまったって話も聞いてるし、それを考えればこんな奴なんて楽勝よねー)
事実、その心の余裕が笑みとして彼女の表情に出ているのが証拠である。
それでも、伝説の武器であるレイグラードを握っているその事実だけは忘れないようにしようと気を引き締め、いったん彼から距離をとってオリンディクスを構えるベティーナ。
そして、その彼の実力を評価する。
「ふぅん、確かに成長はしてるみたいね。技にキレも出てきているし、スピードもあるけど、ちゃんとこっちに当ててこようとするその姿勢は評価できるわね」
「そりゃどーも」
「でも技術的にはまだまだ甘いわね。そんなんじゃ私に勝つのは五百年は早いのよ!!」
自信たっぷりにそう言うベティーナだが、彼女は決して口だけではない。
彼女もまた、ベルタと同じくAランクの実力を持っている冒険者でもあるのだから、まだCランクのルギーレとは経験も技術も度胸も、そして世間からの評価も段違いなのだ。
その証拠に、早々にルギーレの実力を見切った彼女はオリンディクスを握り直して、彼に向けて一気に決着をつけるべく猛攻を仕掛けてきた。
「くっ、うっ!?」
「ほらほらあ、足元がお留守なのよ!!」
「ぐうあ!!」
あなたを倒すことなどまるで赤子の手を捻るように簡単だ、と言わんばかりのベティーナの猛攻をかわしきれず、ルギーレはオリンディクスに足を払い飛ばされてしまった。
だが、ルギーレだってこれで終わる人間ではない。
地面を転がって立ち上がり、サイドステップで槍をかわしつつ反撃。
レイグラードの加護を受けている以上、普段の自分とは違うことをベティーナに見せつけ始めた。
(パーティーにいたころはちゃんとやり合ったことなかったからわかんなかったけど、ようやく掴めてきたぜ、こいつのリズムが……)
レイグラードの加護があるとはいえ、ルギーレはベティーナの動きに目と身体が慣れてきたのもあって次第にその攻撃についていけるようになる。
突き出される槍の先端を弾き、時には蹴り技も繰り出してベティーナに攻撃を当てられるようにもなってきたのだが、それでもまだベティーナは本気ではない。
「ふふふ、少しはやるじゃない。さっきから比べてみると偉い違いよね」
「おしゃべりしてる暇があんのかぁ!?」
「あるわよ。だってほら、現にこうしてあなたの攻撃を避けながら口を開けるんだからね!!」
オリンディクスを自分を中心として一回転させる範囲攻撃を繰り出してルギーレを遠ざけ、懐からナイフを取り出して投げつける。
それをレイグラードで弾いて回避したルギーレだったが、次に見えたのは彼女の履いているブーツの底だった。
「ぐっ!!」
咄嗟にバックステップをしたものの、間に合わずその飛び蹴りを受けてしまったルギーレは後ろに転がる。
技によってはこうして予想もしない場所からの追撃が来ることもあるので、なかなか気が抜けない。
そんなルギーレに対して、ベティーナは素早くオリンディクスの突き攻撃を繰り出す。
それをブロックしたルギーレは、ここでレイグラードをそのまま彼女に突き出して叫ぶ。
「爆ぜろ、エクスプロージョン!!」
「っ!?」
ベティーナは咄嗟にバックステップで距離を取ろうとしたが、その前にレイグラードの刀身を中心に爆発が起こるのが先だった。
シューヨガの町で爆破されてしまったモニュメントが粉々になるほどの威力こそないものの、その爆発に巻き込まれてしまえばタダでは済まないだろうというレベルの攻撃だった。
爆発の衝撃で洞窟内の岩壁の一部がボロボロと崩れ落ち、ガレキが周囲に散乱する。
これで決まって欲しいと思うルギーレだったが、現実はそこまで甘くなかった。
「ふー……危ない危ない。まさかこんな技を出されるとは思わなかったわ」
「っ!?」
「でも、この私に傷をつけられただけでも褒めてあげる。ここから先は私のターンよ!!」
爆発の煙が晴れて、その中から姿を見せたベティーナの頬からは血が流れている。
だが、今のエクスプロージョンをもってしてもそれだけしかダメージを与えられていなかった事実が、嫌でもルギーレの目に入ってしまう。
そして彼女は、両手を突き出す体勢でオリンディクスを構えて盾の代わりとしていたのだ。
その槍から噴き出ている、どす黒いオーラが今のルギーレの必殺技をかき消してくれることを願った結果、その願いが叶ったことに感謝しつつ。




