189.たらい回し
突然爆破されてしまったモニュメントに驚いた町の住人や兵士部隊、そして騎士団の人間たちが集まってくる横をすり抜けて、爆弾を持ったままルギーレはひたすら走る。
幸いなことに、次の目的地である町の中心部の柱まではモニュメントから一本道だったので迷わなかったのだが、なぜかそこの柱には茶色の馬が括り付けられている。
「着いたぞ。時間には間に合っただろ?」
『ええ、合格ね。それじゃ次はそのつないである馬に乗って、三十秒以内に町の外へ出なさい。ああ……北の出入り口から出るのよ。それ以外の出入り口から出たらドカーンとやっちゃうからね』
「は? いやちょっと待て、町の中を馬で走るって……」
『ほら、あと二十八秒よ』
「くそー……」
有無を言わせずに命令を下す、ベティーナのその冷たい声に逆らうこともできないルギーレはバッグを持ったまま素早く縄をほどき、馬にまたがって走り出した。
北の出入り口に向かう大通りを、通行人たちの悲鳴を聞きながら馬に乗って疾走する。兵士部隊や騎士団員たちが吹き鳴らす警笛の音や怒声も聞こえるが、もし時間制限に間に合わなかったらそれ以上の大騒ぎになってしまうので構ってなどいられなかった。
(縄が緩く結ばれてて、この馬も大人しかったからよかったけど、このまま俺はたらい回しにされるのかよ!?)
しかし、こんな町中で爆弾を爆発させられてしまったら自分以外にも被害が出ることは明白だ。
せめて馬に轢かれないようにどいてくれと願いながら、ルギーレは馬を全力疾走させる。
すると真っ直ぐ進んだ場所に、町の出入り口を示す木製の茶色のアーチが見えてきた。
脇目も振らずに走って、今どれくらいの時間が経過しているのかわからないまま町中を一気に突っ切ったルギーレのもとに再びベティーナの声が響く。
『よしよし、それでいいのよ。全部で二十七秒だったから頑張ったわね。それじゃあ今度はその馬をそこに放置して、徒歩でそこからもっと北の方に行ったところにある森の出入り口に向かいなさい』
「森?」
『そうよ。時間は全部で二十五秒。はい、スタート!』
このたらい回しにはいったい何の意味があるのだろうか?
もしかすると、ただ自分を振り回して遊んでいるだけなんじゃないのか?
ルギーレはだんだんムカついてきてはいるが、指示に従わなければ先ほどのモニュメントが自分の末路になると目の前で理解しているので、はぁはぁと息を切らしながら森の出入り口が見えてきたのを確認する。
「はあっ、はあっ、くそっ! ……おい、はぁ、着いたぜ……!!」
『へー、なかなかやるじゃない。じゃあその森の中に入って、ずっと奥に進んでよ。ああそうそう、爆弾はまだこっちで爆発させられるんだから、そのまま持ってきてよね』
「わかったよ。で……俺をどうするつもりなんだ?」
『いいから黙ってこっちの指示に従っていればいいのよ。今のあなたは私たちの操り人形でしかないんだからね』
「俺は物じゃねえんだぞ!!」
『あら、パーティーのお荷物が言うようになったじゃないの。でももうこのゲームも終わりだからよかったわねえ。さぁ、奥に進んだら洞窟があるから、その中に入って次の指示を待つのよ』
こうしてルギーレはシューヨガの町を大混乱に陥れた挙句、洞窟へと案内されてしまった。
その混乱に陥っている町では、ルギーレに遅れて到着したロサヴェンやジェディスの姿があった。
「うわ、何が一体どうなっているんだ?」
「わからない。とにかく情報を集めて陛下とかに報告だ!」
一緒にやってきた他のメンバーも含めて町の中で話を聞き回った結果、モニュメントがいきなり爆発したりルギーレが馬で暴走したりといった証言が出てきた。
先ほどから自分たちの魔晶石に入っていたルギーレの声と、聞きなれない女の声はこの騒動を巻き起こして町を混乱させるためのゲームだったらしい。
「町の中に入る前に、こちらとの通信をつないでおいてくれとルギーレさんにお願いしていて正解でしたね」
「ああ。だが、俺たち兵士部隊も騎士団もこの町の混乱をまずは鎮めないとな」
「ああ。よし、なら俺は騎士団を指揮するからヴィンテスは兵士部隊を頼む。他の三人はルギーレのバックアップに向かってくれ」
ジャックスのテキパキとした指示によって、ルギーレを追いかけて森の出入り口へとたどり着いた一行。
だがその頃、ルギーレは奥の洞窟の中で更なる修羅場に待ち構えられていたのである。




