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187.帰ってきたレイグラードと出発するルギーレ

「はい、ジャックス」

『ラスバート副長ですか? リュシュターですが』

「あっ……陛下!? いかがなさいました!?」


 いきなり自分の主君から魔術通信が入ったことで、動揺しつつも他の客には聞こえないように声を潜めながら、隅の方へと移動して用件を尋ねる。

 すると、不可解なことを聞かれ始めた。


『一つお聞きしたいのですが、レイグラードがなくなってしまったのです』

「……え?」

『前にルギーレさんからお聞きしたところによれば、どうやらレイグラードは意思を持っており、持ち主のもとに勝手に行ってしまうとか。……もしかして、そちらに行ってたりしませんか?』

「……はい、来てますね」


 意思がなければレイグラードが勝手に動いてこんなところまで、しかもあんなに無造作に宿の地面に放置されたりしないだろう。

 少なくとも、これは国宝なのだから。

 ジャックスはそのリュシュターからの話をルギーレに伝え、こうして帰ってきたレイグラードとともに、本来の持ち主はシューヨガの町へと向かう。


「でもさぁ、あいつらに渡したところでレイグラードが今回と同じように脱走したりするんじゃねーかって俺は思ってんですよね」

「ええ、それは私も同じことを考えていました。その場合はルディアさんを取り戻して遠くまで逃げておかなければ、きっと向こうの連中の追撃を受けることでしょう」

「そうだな。俺もティラストの考えには同意だよ。まさかレイグラードってのが本当にこんな勝手に動く剣だなんて思ってなかったし」


 ティラストもヴィンテスも、まさか本物のレイグラードがこうして持ち主と一緒に行動するだけの意思があるなんて思ってもみなかった。

 それもそうだろう。物体には魔力が宿っていても、意思はないのが当たり前。しょせん物は物で、それ以上でもそれ以下でもないのだから。

 それはともかくとして、まずはあのベティーナからの通信の後に必死で書き起こしたメモを読み返すルギーレ。


「こっちにある本物のレイグラードを持ってくること。必ず一人で指定の場所へ来ること。一人で来たことを確認したら魔晶石に連絡を入れるからそこから先はあいつらの指示に従うこと。まずは明日の昼までに、アクティルから西の方にあるシューヨガの町の中にある大きな木製の蝶ネクタイのモニュメントの前までに来ること。昼を告げる鐘が鳴るからそれまでに来なかったらルディアは殺す」

「ならばあまり時間がないな。シューヨガの町はこの村からどんなに馬を飛ばしても一日以上はかかるぞ」

「ええっ!? じゃあもう行かなきゃならないですよね!?」

「だから早く行動するべきだ。ルギーレにはこれを持たせておく」


 もう時間がないじゃないかと慌て始める彼に対し、ジャックスは懐からこんなものを取り出した。

 それは黒光りする、金属の卵型の物体だった。

 その中心部では赤い光がピカッと光っているのだが、果たしてこれはいったい何なのだろうか?


「これ、は……?」

「それは人間の魔力を追跡できる、小型の追跡装置だ。この近衛騎士団に所属しているといろいろと陛下の身の回りに気を配ることも多くてな。陛下は血を見るのが嫌いで戦いに慣れていない方だから、万が一の時に備えてこれを持たせ、居場所を把握できるようにしている」


 これは予備の追跡装置なのだが、ルギーレに渡すことによってこの国内であればどこにいるのかを瞬時に把握できるらしい。

 向こうはルギーレに対して「一人で来い」と言っているらしいのだが、その要求をのまずに複数人で行ったとしたらルディアを本気で殺す可能性もあり得る。

 そこで考え付いたのがこの作戦だったが、向こうも向こうでニルスという大物がいる以上、どんな展開になるかは実際に行動を起こさないとわからない。


「よし、じゃあ行きます」

「ああ、何かあればすぐに連絡しろ」


 ロサヴェンのセリフにうなずきで返答し、地図をもらってシューヨガの町へと馬をかけさせるルギーレ。

 時間短縮であればセルフォンにドラゴンの姿になってもらって、そして一気にそこまで飛んでもらうのが一番早いのだが、そんなことをすれば即座に救出作戦失敗である。

 なので今は、ルギーレ自身が馬を走らせるしかないのだ。


(待っていろよルディア! 俺が必ずお前を助け出してやる!)


 ここまで一緒に旅をしてきた大切な仲間。前のパーティーの連中たちとは違う、心から信頼のおける仲間。

 そんな彼女を見捨てるわけにはいかない。

 その一心でルギーレは途中で休憩を入れつつシューヨガの町まで馬を走らせ続けたのだが、ベティーナからの連絡通り、相手からの要求はそれで終わりではなかった。

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