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186.取り戻す!

「お、おい……これってまさかレイグラードじゃないのか?」

「え? 本当か?」


 ざわざわと宿屋のロビーが騒がしくなったので、ルギーレたちがそこに向かってみると、数人の男女が一本のロングソードを囲んでざわついていた。

 まさか……とルギーレがそのざわめきの中に入って行ってみれば、そのうちの一人が持っているものは間違いなく……。


(あっ、俺のレイグラード!?)


 このピリピリと伝わってくる、肌にまとわりつくような魔力の感触は間違いなく自分が使っているレイグラードであると断言できる。

 しかし、以前に言われた通りこのイディリークにおいてはレイグラードというのは国宝である。

 その国宝がなくなってしまったという話が少しずつではあるが広まり始めているらしい。

 そしてそのなくなった国宝がここにあると知られたら、いったいこの宿屋の人々をはじめとして何をされるかわからない状況だ。

 ここは穏便に取り戻すべく、ルギーレは自分からその男女の輪の中に入っていく。


「あれっ? それって俺が落とした剣だ!」

「おい、なんだあんた?」

「俺? 俺は見ての通り旅の男だけど、それ、俺が数日前に別の場所で落とした剣なんだよ。何でここにあるんだ?」

「これはここに落ちていたんだが……」


 そう言いながら床を指差す男。

 あのバーレンの時と同じく、持ち主と認めた人物の手を離れたら勝手にこうやって脱走(?)してくるのは変わらないので、これで取りに行く手間は省けた。

 だが、ここからが選択を間違うと大変なことになってしまうのでルギーレは慎重に言葉を選びながら、なんとか自分のもとにレイグラードが帰ってくるように心がける。


「そうなのか? 誰かが届けてくれたのかな?」

「それはそうとして、これってあなたの剣なの? なんだかレイグラードに似てるんだけど……」

「レイグラードって?」

「あなた知らないの? レイグラードはこの国の国宝なのよ?」

「あーそうなの? うーん、そう言われれば聞いたことあるようなないような……」


 ここは「知っているようでやっぱり知らなかった作戦」で押し通すことに決めた。

 その様子を遠巻きに見ている他のメンバーたちは、ここは他人のふりをしつつ彼に任せることにしたのだが、どうにも不安はぬぐえない。


「大丈夫かな、ルギーレ……」

「私たちがうかつに手を出さない方がいいでしょう。そうなるとややこしくなるだけです」

「そうだな。あのレイグラードはおそらく陛下に渡したという本物みたいだが、俺もここは見守るだけだ」

「そうですね。俺もラスバート副長に同意します」


 ヒソヒソとそう言いながら、ルギーレとその男女のやり取りを見守る一行だが、ルギーレの方はこのギリギリのやり取りでミスをしないようにと嫌でも緊張感が高まる。


「あー、それってもしかして歴史書に書かれているあの剣のことか? ルヴィバーって英雄が使ったっていう」

「そうだよ、ルヴィバー様のその剣だよ。これってレイグラードじゃねえのか?」

「違う違う。大体さぁ、今あんたたちその剣が国宝だって言ってたよな? 国宝っていうんだったら普通は城とか博物館とかに飾られてんじゃねえの?」

「ええ、そうよ。たまの行事の時には銅像に握られて展示もされるわ」

「へー、そうなんだ。だったらやっぱりそれは俺の剣だよ。だってよぉ、そんな展示されるような剣をよそから来た旅人の俺が持ってると思うか? それに、似たようなデザインの剣なんて世界中にたくさんあるんじゃねえのか?」


 そう、普通に考えれば国宝のレイグラードをこんなに簡単に持ち出せるわけがないし、どう見ても旅人という格好の男が気軽に持ち歩けるような代物ではないことは確かである。

 そう言われれば確かにそうだと納得する男女だが、その中の一人の女が盗まれたという噂について言い出す。


「確かにそれはそうかもしれないけど、アクティルが襲撃されたってのは知ってる?」

「うん、この宿に来るまでに聞いた。だからここで一泊して、別のところに行こうって思ってさ」

「それはあなたの勝手だけど、この剣って本当にレイグラードじゃないの?」

「だから違うって。そもそもレイグラードだったとしたら、俺はこんな雑に扱ったり、ましてや落としてなくしたりしないだろ。これは俺が冒険者になった記念として、鍛冶職人だった父親がデザインして作ってくれた、世界に一本だけの武器なんだよ」

「そう、か……」

「わかったら返してくれ。拾ってくれてどうもありがとう」


 最後の方はやや強引だった気もするが、これでようやくレイグラードが手元に戻ってきたので腰に帯剣し直すルギーレ。

 しかしその時、ジャックスの魔晶石に皇帝のリュシュターから魔術通信が入ってきた。

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