185.それぞれの動き
「でもまさか、あの城の地下にあるレイグラードが偽物だったなんてねえ」
「俺もそうかなとは思っていたが、万が一ということもあるし国宝として保管するだけの価値があるのなら奪って正解だったかもな」
結果的に本物のレイグラードと交換できるチャンスを作ることができたわけだし、要求に従わないならルディアを殺すだけである。
レイグラードを手に入れるためならなりふり構わず何でもやってやるというスタンスなのだが、かといって直接襲撃するのはリスクが高い気がして今まで踏ん切りがつかなかった。
「トークスの言う通りだとは思う。でも俺思ったんだけどさぁ……あの村の奴ら全員ぶっ殺してルギーレの奴も殺して奪っちまえばよかったんじゃねえの?」
「確かにそれでもよかったわ。でも、あの男にレイグラードを握られてしまったら私たち全員やられてしまう可能性があるからおすすめはしなかったじゃない」
「よく言うぜ。あんたの恋人はあの斧を使ってレイグラードに勝ったんだから、弓と槍を作ってもらったあんただって勝てると思ったんだけどよ」
「ふふ……かもね。でも万が一ってこともあるから確実な方法を取らなきゃ」
リスクの高いことは避けたいというベティーナに同調するトークスは、気になるうわさについても話し始める。
「そうだぞヴァレル。それにお前、ドラゴンの話は知っているか?」
「ドラゴン?」
「前に話しただろう。あのルギーレたちのそばには、大きなドラゴンがいるかもしれないという噂があると」
「あ? あー……ああー、そんなこと言ってたような言ってなかったような……」
最近、ルギーレたちの周りを探っているバーサークグラップルの金髪の弓使いロークオンと、彼の相棒的存在である緑髪の槍使いエイレクスからの話によれば、謎のドラゴンがルギーレたちの周りにいるのではないかという情報だった。
この世界での移動手段といえば列車や馬などだが、お金持ちであればワイバーンを使うこともある。
しかしドラゴンを移動手段として使うのは、治安の面や餌代の問題などもあって百万人に一人いるかいないかというレベルである。
「でもさぁ、そのドラゴンがどうしたってんだよ? 移動手段だったらそいつもぶっ殺せばいいだけだろ?」
「それはそうなんだが、ドラゴンには重要な秘密があるとかないとか……まぁ、これ以上は情報が全然入っていないらしいんだけどな」
「かーっ、何だよそれ。じゃあそれよりも、今は本物のレイグラードの話しようぜ」
「そうだな」
そう、不確かな情報の話をするよりも確かな情報の話をする方がよっぽど生産的である。
ドラゴンの話はそこでストップし、ルギーレとの取引を成功させるために三人は作戦を話し始めた。
◇
一方、ルギーレたちはこの緊急事態にどう対応するかを迫られていた。
「まずいことになったな……彼女はどうやってここから誘拐されたんだ?」
「そんなことよりも、これからルディアをどうやって助け出すかが問題だろう」
この旅路に大きな方向転換を強いられてしまう出来事。
それはエスヴェテレス帝国で最初にルディアとともに誘拐されてしまったことと、ほぼ同じような展開ではないか。
あの時は死神のあだ名がついているトークス、そしてその仲間であり雇い主であるウィタカーに誘拐されて、ルディアが魔術を発動して何とか逃げ出した記憶がある。
しかし、今回誘拐されてしまったのはルディアただ一人。
今までも別行動をとっていたことはあるが、その時は自分の目の届く範囲もしくは仲間たちが一緒にいたからこそ別行動をしていた。
だが、今回は自分の「元」仲間がルディアを誘拐してしまったのだから話が全然違う。
「くっそ、あいつらルディアを誘拐してまでレイグラードを奪おうとしてんのかよ!!」
「勇者であることを捨てただけのことはあるな。人の道を外れることもいとわないらしい」
ルギーレの怒りにジャックスも同調するが、ルディアを取り戻すためなら向こうの要求に従うしかないらしい。
ここは大人しく、明日の昼の鐘が鳴るまでの間に指定された場所に向かうしかなさそうだった。
「じゃあさっさとまずはアクティルに戻って、レイグラードを取ってそのまま西に向かわないとな!」
「ええ、そうしましょう」
ルギーレにティラストが同調したその時、一行のいる村の宿屋のドアが開かれる。
そして飛び込んできたのは思いもよらない光景だった。




